放送界の先人たち・武敬子氏~「男女7人夏物語」にさんま起用のわけ~【調査情報デジタル】
久野:何て言うか、武さんを育てた最大の人じゃないかって。 武:そうだと思う。話がすごく面白かったし、よく勉強していらしたし、よく話を聞いてくれたし。あたしの方も「今度こういうものを企画してるんですけど、どう思われますか」っていう相談をしたしね。あと、秋元さん※ともそういう関係だった。 ※秋元松代(1911-2001)戦後を代表する女性劇作家。代表作「近松心中物語」など。 久野:武さんにとって、ラジオドラマってどういうものでした? 武:言葉の美しさっていうのかな。詩も戯曲もそうなんだけど、あたしたちの仕事は、言葉から生まれてくるわけじゃない。そういう意味では、ラジオっていうのは、言葉の美しさをそのまま出してくれるじゃない。 ■安部公房と組んだ異色作 久野:だけど一方で、安部公房※さんが構成、演出した「チャンピオン」は… ※安部公房 (1924-1993) 小説家・演出家。代表先に「壁」「砂の女」など。「チャンピオン」は武敬子プロデュース、安部公房構成・演出による1963年放送の“ドキュメンタリーポエム”。ボクシングジムなどの生音(なまおと)と俳優の声の演技を組み合わせ、録音構成とドキュメンタリーの折衷のような作品。民放祭ラジオ文芸優秀賞。 武:うん。 久野:まあ、もちろん言葉といやあ言葉だけど。 武:安部さんが作りたかったんじゃない?安部さんと一度仕事してみろっていうのは、大坪※さんに言われたのね。 ※大坪都築(つづき)文化放送のラジオドラマ演出家。出身はラジオ九州。 大坪さんが安部公房と仕事したときに、すごく面白かったから「チャンスがあったら、一度仕事してみないか」って言われたわけ。いい先輩っていいね。そう言ってくれるからさ。それで、安部先生に「仕事したいんです」って言いに行ったわけ。そしたら「チャンピオン」っていうボクシングを題材にした作品にしようって言われて、私はボクシング、全然好きじゃないですって言ったら「好きじゃないったって、好きになってもらわないと困る」って言うわけ。だって、好きじゃないのに。どうしてあんなに殴ったりなんかするんですか、全然分かんないって言ったわけ。そうしたら、見始めたら分かるって、後楽園ジムに連れて行かれたの。