放送界の先人たち・武敬子氏~「男女7人夏物語」にさんま起用のわけ~【調査情報デジタル】
久野:へえ。 武:でもやっぱり、全然面白いと思わない。でもまあ、こんなに熱心なんだから、言うことを聞いてみようと思ったの。そうしたら安部さんが、録音機を朝から晩まで回して、ボクサーの日常生活を全部録音して来いっていうわけ。だから、技術の人を1人借りて、これから1週間、何にもしなくていいから、ボクサーの朝から晩までを録音して下さいって言ったら、もう忠実にそれをやってくれたわけよ。 で、昼間録ったテープが、夜になると上がってくるわけ。あたしはそれを聞きながら、安部先生のとこへ届けた方がいいなと思うテープと、要らないなと思うテープを区別していく。すると安部さんが、これはもう十分に材料になるから、これで行こうって言って、あたしはなんだか分かんないけど。で、「君は心配しないでいいよ。音は、武満さん※でいこう」って。そんな状態… ※武満徹(1930-1996)日本を代表する現代音楽家 久野:一種のミュージック・コンクレート※みたいにもなってるもんね、あれ。 ※具体音楽。人の話し声、都市の騒音など自然界の音を録音し加工して再構成される電子音楽の一種。 武:NHKの人が聞いて、ショックだったって言ってたから、そんなにショッキングなものを作っちゃったのかなと思って。 ■テレビの世界へ 久野:それで結局テレビに移っちゃうわけですね。 武:うん、うん。 久野:プロデューサーの名前を出してやっているのは… 武:「目撃者」※ 。 ※1964年11月27日放送。脚本:安部公房、演出:久野浩平、出演:井川比佐志、市原悦子。芸術祭奨励賞。 久野:その翌年の「海より深き」※と。 ※1965年11月21日放送。脚本:秋元松代、演出:久野浩平、出演:南田洋子、北林谷栄。芸術祭文部大臣賞。和泉式部の民間伝承をもとに、炭鉱事故による悲劇に見舞われた一家の苦悩を描いた現代ドラマ。 武:その前にも……。 久野:あ、「山ほととぎす ほしいまま」※ 。 ※1964年9月4日放送。脚本:秋元松代、演出:久野浩平、出演:渡辺美佐子、森幹太。大正時代の女性俳人杉田久女をモデルにしたドラマ。