旧優生保護法の救済法成立1か月、声上げられなかった被害者の「掘り起し」進む…「恥ずべきことない」
旧優生保護法(1948~96年)に基づく強制不妊手術の被害者救済法が成立し、8日で1か月となった。来年1月の法律施行と補償金の受け付け開始に向け、道内でもこれまで声を上げられなかった被害者の「掘り起こし」が進んでいる。(岡絃哉) 【グラフ】不妊手術を受けた人数の推移(北海道)
札幌市内の高齢者施設で暮らす高橋英弘さん(86)は、手話でこう語った。
自身と同じく聴覚に障害を持っていた妻(2018年に79歳で死去)が30歳ぐらいの頃、岩見沢市内の病院で人工妊娠中絶手術を受けた。その際に不妊手術も行われていた可能性があるという。
ずっと「手術は仕方のないことだった」と自分に言い聞かせてきたが、最高裁が7月、旧法を「憲法に反した法律だった」と断じて国に被害者への賠償を命じる判決を言い渡した。それを受け、裁判を起こしていない被害者も一律で救済するための制度が新設されることになり、高橋さんは「被害者の遺族」として名乗り出ることを決めた。
これまでも読売新聞の取材に応じてきた高橋さんは、今回初めて実名と素顔を公表した。あまたの被害者と同じく、差別や偏見を恐れながら暮らしてきたが、最高裁の判決と救済法の成立を機に「何ら恥ずべきことはない」と思えるようになったためだ。
3~4件検討
救済法は来年1月17日に施行され、同日から補償金の請求が可能となる。不妊手術の被害者本人は1500万円、配偶者には500万円が支払われ、既に他界している場合は遺族が受け取れる仕組みだ。人工妊娠中絶の被害者にも200万円の一時金がある。
ただ、こども家庭庁に新設される審査会が支払いの可否を判断する際、どんな資料を申請者側に求めるかは確定していない。手術が何十年も前に行われて記録が散逸しているケースも多いとみられ、道内の被害対策弁護団の事務局長を務める小野寺信勝弁護士は「詳細な記録が必要となれば、申請のハードルはかなり高くなってしまう」と危機感を募らせる。