クラスター発生で試合のできなかったサガン鳥栖はなぜ約1かぶりの公式戦となる横浜FC戦に快勝できたのか?
再出発を3-0の快勝で飾った直後のオンライン会見が、司会進行役を務めた広報担当者の挨拶で終わりかけた瞬間だった。サガン鳥栖の金明輝監督が、おもむろに右手の人さし指を示した。 「すみません。僕からの余談ですが…」 ひとつだけ言わせてほしいと広報担当者に願い出た上で、対戦相手だった横浜FCの下平隆宏監督との間で、90分間を終えた直後に交わされたやり取りを自ら明らかにした。 「下平監督に『おめでとう』という言葉をかけていただきました。J1を戦っている仲間として、そういう声をかけてくださる懐の深さといったものを、今日は一番感じていたいと思いました」 敵将への感謝の思いを紡いでいる間にほんの一瞬ながら、金監督は声を途切れさせている。本来ならば「お疲れさまでした」となる試合後の挨拶を、あえて「おめでとう」と変えたなかに散りばめられていたメッセージが、39歳のJ1最年少監督を思わず感極まらせた。 ホームの駅前不動産スタジアムで5日に行われた明治安田生命J1リーグ第14節は、鳥栖にとって8月8日の鹿島アントラーズ戦以来、4週間ぶりの公式戦だった。この間に選手6人、スタッフ5人が新型コロナウイルス感染のPCR検査で陽性と判定された。Jリーグ初のクラスターが発生したなかでリーグ戦4試合が延期され、YBCルヴァンカップのグループステージ最終節が中止となった。
保健所の指示に従って、クラブも8月11日から25日まで活動を停止した。最初に陽性判定が発表された金監督は19日まで、他の選手とスタッフは22日まで佐賀県内の病院へ入院した。退院後も自宅待機を指示され、11人が全体練習に合流できたのは横浜FC戦前日の4日だった。 「正直に申し上げると、新型コロナウイルスに罹患した選手は一人も(試合に)出ていません。ただ、誰が罹ったという憶測はやめてほしい。しっかりと準備ができた選手が試合に出た、と解釈してほしい」 メディアに願い出るような口調で、金監督は横浜FC戦へ臨んだ舞台裏を明らかにした。陰性が確認された選手たちも、シーズンの真っ只中で15日間の自宅待機となったことで、どうしてもコンディションが落ちる。10日間の全体練習で元の状態に戻せた、という手応えも得られなかった。 それでも横浜FC戦へ向けて、チーム全員はひとつの思いを共有していた。右サイドからDF森下龍矢が放ったグラウンダーのクロスに対して、相手のセンターバックの間を割るようにしてゴール前へ飛び込み、左足をヒットさせて前半11分に先制点をあげたFW金森健志が胸中を明かした。 「コロナの影響で動けないんじゃないか、他のチームに差をつけられたんじゃないか、横浜FCが勝つんじゃないかと、周囲からは見られがちだったと思います。正直、体力的にはかなり厳しかった部分がありましたけど、それを言い訳にはしたくなかった。絶対にはね返してやろうと、自分たちが勝利する姿を見せてファン・サポーターの方々へ元気を与えようと思っていました」 昨年5月から指揮を執る金監督がベースに掲げてきた、相手よりも走る、攻守を素早く切り替える、球際の攻防で負けないーーが凝縮され、ダメ押しの3点目が生まれたのが後半41分だった。