クラスター発生で試合のできなかったサガン鳥栖はなぜ約1かぶりの公式戦となる横浜FC戦に快勝できたのか?
横浜FCのコーナーキックのこぼれ球を、自陣の中央でFW小屋松知哉が相手よりも早く奪う。次のプレーとして選択したのは、相手ゴールへドリブルで一直線に向かうカウンターだった。 先発メンバーの一人だった小屋松は、残されていた力を振り絞ってグングンと加速する。必死に追走してきたDF瀬古樹を最後まで寄せつけず、そのまま右足でゴールを射抜いた。 「チームとして大変な時期を過ごしてきたからこそ、みんながひとつになって戦うべきだと考えていました。真価が問われる一戦で一歩を踏み出せたのは、気持ちの部分が大きかったと思います」 活動停止中に厚生労働省のクラスター対策班による疫学調査を受けた。感染経路は佐賀県内や鳥栖市内での市中感染ではなく、先月1日のFC東京戦で都内へ遠征した際に、宿泊先のホテルの壁やエレベーターのボタンなどに触れた間接的な接触の可能性がある、という見解が示された。 もっともヒアリングを介して万全ではなかった管理体制も判明した。具体的にはシャワー室に放置された個人用タオルやビュッフェ形式の食事の際に共用されたトング、同居家族以外との会食、あるいは試合中の飲水タイムで首脳陣がマスクなしで指導したケースなどが指摘された。 全体練習が再開された先月26日からはクラブが作成した、改善すべき行動が記されたポスターがクラブ施設内のいたるところに貼られた。感染予防に反していると思えば先輩後輩や肩書きの関係なく、忌憚なく意見を言い合うことも確認された。そして、オンラインで開催されたミーティングで、自宅隔離中の金監督が発した言葉に鳥栖にかかわる全員が心を動かされた。 「気をつけろ、とみんなにいいながら、自分がこうなってしまった」 金監督は8月9日夜に38度の発熱を訴えていた。翌朝には平熱に下がったことでクラブには報告せず、そのまま練習を指揮した後に再び体調の異変を覚え、佐賀県内の病院で受けたPCR検査で陽性判定が出た。金監督の濃厚接触者ではないと判断されたものの、万全を期すために選手やスタッフら89人にPCR検査が実施された結果として、佐賀県からクラスターと指定される事態へ発展した。 「私の感染でチームを矢面に立たせてしまったことをお詫びしたい。試合が延期になった湘南さん、札幌さん、仙台さん、ガンバさんに、そしてサガン鳥栖のファン・サポーターの方々にも多大なるご迷惑をかけてしまった。試合に関しては戦術うんぬん抜きで、絶対に勝つ、という気持ちを出してくれた。ファン・サポーターを含めて、サガン鳥栖のファミリーが一丸となった勝利だと思っている」 試合後のオンライン会見のなかでこう語った金監督へ、横浜FCの下平監督は完敗を認める言葉のなかにエールを込めている。