阪急が参画表明、日本と「マニラ都市鉄道」の40年 「オールジャパン」の限界が露呈した新線建設の歴史
東南アジアの環境を考慮していないタトラの車両は当初、トラブルが相次いだが、メンテナンスを請け負っていた住友商事及び三菱重工側で対応したとみられ、今でも車内には三菱のロゴが掲出されている。 しかし、2012年に運輸省が住友商事とのメンテナンス契約延長を認めなかったことで事態は深刻化した。委託先をフィリピンのローカル企業や韓国企業と次々に変更したが、満足なメンテナンスができないどころか、レールを含むメンテナンスパーツが調達できず、大規模な輸送障害が頻発した。
結果的に「首都圏鉄道3号線改修事業」(約381億円)として円借款契約が結ばれることとなり、2019年に再び住友商事と三菱重工エンジニアリングがメンテナンス契約を受注し、車両及び設備改修、またメンテナンス体制を構築した。古い車両で予備車も少ない中、厳しいオペレーションであることは間違いないが、今のところ安定した運行が実現している。 ちなみに、運輸省が発注し、2016年から2017年にかけて中国北車大連(現中国中車大連)から導入した3両編成(3連接×3)16本については、現時点で1編成も稼働していない。このうち1両が三菱重工三原製作所に搬入された実績があるが、「首都圏鉄道3号線改修事業」でリハビリを実施するのかは現時点では不明である。
すべてがODAで賄われて開業したのはLRT2号線である。「メトロマニラ大都市圏交通混雑緩和事業I・II・III」(約247億円、263億円、236億円)の計3回の円借款供与を受けて2003年に開業した。名称はLRTであるものの大型車両を採用している。それぞれのパッケージの主契約者はいずれも日系商社であるが、車両・軌道等の鉄道システムに関しては丸紅が受注し、ロテム製(電装品は東芝製)車両を導入した。
数年で故障が目立つようになり、稼働率は5割程度に低下したものの、先述の「マニラ首都圏大量旅客輸送システム拡張事業」に関連して改修が進められ、2021年7月の東側延伸(サントラン―アンティポロ間、約4km)に備えた。 ■「日本の強み」示すチャンスが来るか 懸案だった1号線、3号線の輸送改善も一段落し、今後はこの状況をどこまで維持できるかが課題となる。 注目はMRT3号線のBLT契約が2025年に契約満了になることだ。これにより、インフラ設備一式が施設所有者のMRTCから運輸省に移管される。運輸省は今後、運営、メンテナンスについて民間に委託(コンセッション契約)することを計画しており、安定した輸送が継続できるかは、過去の例からして受注企業次第だろう。一体的な運営という面からもLRMCが受注することが望まれるが、果たしてどうなるか。今回のLRMCへの阪急やJICAの出資参画がここまでを見越した動きであるのならば、あっぱれと言いたい。
いずれにせよ、「オールジャパンインフラ輸出」からの脱却、つまり核となる部分は日本の技術を導入しつつ、それ以外は他国とも組む「コアジャパン」化は、現に進みつつある。土木工事、そして車両納入では、もはや他国との差別化は図れないどころか、他国の方が安くいい製品を提供できる時代になっている。そんな中で、日本の強みは何なのか。この過去40年弱のフィリピンの事例には、反面教師としなければならない点も多々あるが、その中から日本に新たな気付きを与えたということも事実なのではないか。
高木 聡 :アジアン鉄道ライター