阪急が参画表明、日本と「マニラ都市鉄道」の40年 「オールジャパン」の限界が露呈した新線建設の歴史
延伸用の車両基地については、清水建設と現地企業のJVが受注した。ただ、これもほかに入札企業がなく、価格面からフィリピン側との契約交渉に時間を要した模様である。 一方で、延伸工事自体はPPP(官民連携)スキームとなり、LRMC主体で実施している。これは土木を民間、上物を国がODAで調達するという珍しいパターンで、このスキームのために日本タイドの円借款で車両を導入できたと言える。 だが、LRMCが調達している土木部分については、詳細設計がシストラ、鉄道システム(電気・機械・信号・通信)がアルストム、土木建設がブイグ、アドバイザーとしてパリメトロが加わるなど、フランス企業によって占められている。日本側では「オールジャパン」と報じられているが、それが幻想に過ぎないという典型だろう。車両だけ入れても電車は動かない。
延伸工事は佳境を迎えており、2024年内にフェーズ1となるバクララン―ドクターサントス間(約6.7km)の開業を目指している。 なお、北側の終点、フェルナンド・ポー・ジュニアとノースアベニュー間の延伸は、完成した高架橋が10年以上も放置されており、MRT3号線と線路もつながっている状態であったが、乗り入れは実現せず、現在、LRT1号線専用のノースアベニュー駅を建設中である。この背景には、駅周辺のいくつかの商業施設との利権関係で争いが起きていると報じられており、延伸開業時期も明らかになっていない。ノースアベニュー駅は、今後、韓国の支援で建設中のMRT7号線も乗り入れる予定で、近隣には日本の支援で建設が進められているマニラ地下鉄(MRT9号線)の駅も立地するなど、首都圏のハブ駅となる。
■阪急の参画で何が起きる? そんな中、5月7日に阪急電鉄がLRT1号線事業への参画を発表した。これは、2020年からLRMCに出資参画した住友商事保有の株の一部を阪急およびJICAに譲渡するという形で進められる。今後はこれら3社が協同して1号線の運営・保守事業に加わることになる。 中でも阪急は、鉄道事業者としてオペレーション、そしてメンテナンスといったソフト面の知見を活かしていくことになるだろう。同社によると、現状でまだ具体的に決まっている部分はないが、メンテナンスやサービスの向上について「われわれが日本で行っているレベルに引き上げるにはどうすれば実現できるか検討している段階」という。また、将来的には阪急阪神グループの他事業との連携も模索するとしている。同グループはフィリピンで住宅分譲などを手がけており、沿線開発などへ発展する可能性もありそうだ。