袴田事件で注目 「再審」ってどういうこと?
日本の裁判では「三審制」をとっています。地方裁判所や家庭裁判所など一審の判決に不服の場合は高等裁判所に控訴し、その二審判決に不服の場合は最高裁判所に上告できます。刑事事件の場合、これで刑が確定して執行されます。しかし、審理を行うのも判決を下すのも人間である以上、間違いがないとは言い切れません。そうした事実誤認から被告人を救うための非常手続きとして、再審という制度が設けられています。ただし、むやみに再審を認めていたら三審制が崩れてしまうため、再審が認められることはめったになく、「開かずの門」と呼ばれています。 1966年に静岡市清水区(旧清水市)のみそ製造会社の専務の家が放火され、住み込み工員だった袴田巌さんによって一家4人が殺害されたとされる『袴田事件』では、静岡地裁が再審開始を決定しました。「門が開く」ために、どんな条件が必要なのか、見てみましょう。
再審が認められるのに必要な条件は
刑事裁判の再審の手続きは、有罪判決を受けた者、有罪判決を受けた者の法定代理人、検察官の3者のいずれかが原判決を出した裁判所に再審請求の手続きを行うことで始まります。原判決を出した裁判所を高裁とするか地裁とするかは、事件によって「個別に判断」されます。袴田事件の場合は、静岡地裁に再審請求が出されました。 再審請求の開始手続きに必要な理由として、刑事訴訟法では次の3つが定められています。 (1)原判決の証拠が偽造されたものである場合 (2)関与した裁判官に職務犯罪があった場合 (3)新証拠が発見された場合 このうち最も多いのは新証拠の発見ですが、新規であるとともに、その証拠が本物なら事実認定がくつがえるくらい大きな影響を及ぼすことが明白でなければならず、この要件を満たすことは多くはありません。
袴田事件で証拠とされた「5点の衣類」
袴田事件で決定的な証拠とされていたのは、事件から1年2か月後、みそタンクの中から発見されたシャツやズボンなど5点の衣類です。問題はその写真です。下着のシャツやステテコは白地のままで、鮮明な血痕がついていましたが、弁護団が衣類をみそに半年漬け込む実験を行ったところ、どす黒く変色し、血痕も判別しづらくなりました。また、布が収縮することを考慮しても、衣類は袴田さんには小さいと判断されました。 それでも1981年4月に行われた第1次再審請求に対しては、新証拠として十分ではないとされて、1994年8月に請求は棄却されました。裁判所から棄却の告知を受けた場合、3日以内に不服を申し立てないとその判断が確定してしまうため、弁護団は即時抗告しましたが、その後、東京高裁から棄却され、続いて最高裁からも棄却されました。