袴田事件で注目 「再審」ってどういうこと?
検察側に求めた証拠開示で状況一転
最高裁で特別抗告を棄却された翌月の2008年4月、弁護団は第2次再審請求を静岡地裁に申し立てました。状況に変化をもたらしたのは、2005年に刑事訴訟法が改正され、弁護側から検察側に証拠開示を求める権利が認められていたことです。 静岡地裁は証拠開示を検察側に勧告し、検察側はこれに応えて、任意で176点の証拠を提出しました。拒否すると強制力のある命令を出されて、すべての証拠の提出を求められ、他の再審まで波及することを怖れたと思われます。これらは証拠のすべてではないものの、専務の家の火事が鎮火するまで姿が見えなかったとされる袴田さんの行動について、元従業員が「いっしょに起きてあとからついてきた」と語るなど、袴田さんの供述と一致する証言もありました。 また、血痕がついた衣類が見つかったみそタンクの中のみその深さは、数センチしかなかったことも判明しました。事件直後には家宅捜索も行われており、この深さで事件から1年2か月経つまで発見されないのは不自然です。
進んだ技術でのDNA再鑑定が決め手に
もう1つ大きな決め手になったのが、DNA鑑定技術の進歩です。第1次再審請求審が行われていた2000年7月には、衣類の血痕について「鑑定不能」の結果が出ましたが、進んだ技術によって再び鑑定が行われた結果、袴田さんや被害者4人のDNAとは「一致しない」とされました。裁判長は「証拠を捏造する必要と能力を有するのは、捜査機関だけだ」と静岡県警を名指しして、捜査への不信を表明しました。
袴田さん釈放後に残る課題
今年の3月27日、袴田さんは釈放されました。検察側は再審開始の決定に対して即時抗告を行っており、東京高裁に場を移して審理は続けられます。 袴田事件を含む冤罪と思われる事件から、私たちが今後の課題とすべきことはいろいろとあります。まず、冤罪についてです。確定裁判総数における無罪率は0.02%(2012年度)と非常に低いものですが、警察によって集められた証拠の中から検察側に都合のよいものだけが提出されて、裁判ではそれをもとに審理が行われ、無実の罪で刑を受けている人がいる可能性が考えられます。また、再審請求審は非公開で行われており、密室の中での審理に対しては疑念が生じます。 袴田事件を機に、捜査方法や証拠の開示、再審請求審のあり方などについて、考え直してみるべきではないでしょうか。 (広沢大之助・社会科編集者)