「太く短く」でも「細く長く」でもなく「太く長く」生き抜くために――今永の球宴出場を支えた仲間たちと小さなハイテク武器<SLUGGER>
その日は、7回途中5安打2失点で約1ヵ月ぶりの6勝目。「結果」としても「投手のコンディション維持」が成功したことになる。ホットビー投手コーチは言う。 「根本にあるのは、先発投手が成功するための最適なチャンスを我々がいつも探しているということ。昇太は自分の現状を説明することに長けているし、そういう面では非常に素晴らしい仕事をしてくれている」 今永が投手コーチやトレーナー、ストレングス・コーチらと密に連携していることは、何ら不思議なことではなかった。なぜなら、彼はキャンプ中からカブスのチームメイト、とりわけ、同じ投手陣と上手くコミュニケーションを取っていたからだ。 日本人選手のために「◯◯選手が日本語を覚えてる」なんて話題は、野茂英雄氏の時代からよく聞かれる話だが、たとえばカブスでは、救援マーク・ライターJr.が、「僕は英語で話しかけるからな」と前置きして、今永に積極的に話しかけているそうだ。 いつだったか、ライターJr.自身がこう説明してくれた。 「それは彼が望んでいることであり、そうすることがここで成功するために必要だと彼自身が感じているからだ。だったら僕は、そのための手助けなら、何だってするつもりだよ」 ベテラン先発コンビのカイル・ヘンドリクスとジェイムソン・タイオンも、投手ミーティングなどでの今永の立ち振る舞いを見て、「ショータはある程度の英語を理解している」と認識しているそうで、簡単な会話なら、わざわざ通訳を立てずに話しかけているという。今永が、「彼のような真っスラを投げたい」と話す、昨年のサイ・ヤング賞投票5位左腕のジャスティン・スティールもその一人だ。 「いろいろトライしながら話しかけているんだけど、僕がそんなに日本語を覚える必要もないんだよなぁ」とスティールは笑う。 「たとえ英語で話しかけても、彼の表情を見ていれば、こちらの言ってることをある程度理解しているのが分かるんだ。彼は上下、僕は上下左右に球を散らしてアウトを積み上げるという違いはあるけど、ピッチングの話をするのはお互いに好きだし、会話を楽しんでいるよ」 今永のシーズン前半の成功を後押ししているのは、人間だけじゃない。 今永を含むカブス投手陣と、ホットビー投手コーチや体調管理の責任者であるトレーナーや、ストレングス・コーチの間を、ある「デバイス=機器」が結び付けている。 「『カタパルト』ですね」と今永。 「ブルペンとかではトラックマンを使っているんですけど、それは球速とか球の回転数とか、回転軸とか回転効率とかを数値化する機械です。カタパルトは投げる量や距離、出力とかを数値化できるもので、自分の仕事量を客観的に見るのに役立ってます」 もしも、あなたがメジャーリーグの球場にいる今永を目撃したら、彼のトレードマークみたいになっている黒いタンクトップか、青いノースリーブのその上に、黒いチョッキのようなものを身に着けているのを目にするだろう。そして、背中の肩甲骨の真ん中当たりを注意して見ると、小さな突起物に気づくはずだ。 「今年のキャンプから本格的に導入した、クールで素晴らしいものだよ」と前出のホットビー投手コーチは言う。 「昔は投球数を数えるぐらいしか、投手が投げる時に費やす運動量を推し量る方法はなかったのだけれど、近年は袖に付けるデバイスとか、いろいろな測定器が用いられるようになった。ただし、投手たちの多くは、腕に何かを付けるのを嫌がる傾向にあるので、(背中に付ける)カタパルトを試してみよう、ということになった」 彼はまるで、自慢のおもちゃを説明する子供のように目を輝かせた。
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