東京五輪開幕戦で侍ジャパンがドミニカに9回逆転サヨナラ勝ちも金メダル獲りへ残った問題点
「代打を出さなかった時点でベンチはセーフティスクイズという作戦を決めていたのだろう。海外のチームはダブルスチールを仕掛けたとき、捕手がピッチャーにカットさせるようなことをやってこない。だから偽装スクイズを仕掛けたのかもしれないが、一塁走者の村上が走っていなかったので、その意図は、はかりかねる。セーフティスクイズをやるなら一発で初球からやってよかったのではないか。甲斐は一塁の位置を確認して冷静に成功させた。ただ8回、9回に出てきたドミニカの2人の投手のレベルはかなり低かった。通常の状態であれば攻略は難しくない投手だが、開幕戦は緊張する特別な舞台。しかも2点差。代打の近藤、山田もよくつないだし、坂本も積極的に甘いボールを最初から仕留めるという姿勢で勝負を決めた。国際試合はバッテリーの勝負が早い。経験豊富な坂本らしい読みだったと思う」 高代氏は、この開幕戦勝利に2つの意義があると指摘した。 「ひとつはチームに余裕を持たせ勢いをつけたこと。私が経験した2度のWBCでも、開幕戦では実力差のある中国に0-3だったり、ブラジルにもドタバタの試合をしたことがある。それほど難しい開幕戦に白星発進できたことは大きい。今回の大会形式は、2度負けてもまだチャンスがあるイレギュラーな方式ではあるが、やはり負から始まるとチームメンタルに余裕がなくなる」 北京五輪でもダルビッシュを先発に立てた開幕戦でキューバに敗れた。いくらオールプロが集まっていても日の丸を背負う五輪の開幕戦は普通の精神状態では戦えない。特別な舞台なのだ。 2つ目の意義は「通用する選手と通用しない選手の見極めができたことだ」という。 「厳しい意見になるが、国際試合では、選んだ選手に万遍なくチャンスを与えるということをすれば勝てない。結果的に使えない選手が出てくる。青柳と山崎(横浜DeNA)は、今後、勝負のかかった展開では使いにくい。その見極めができたことは逆に収穫だったと思う」 また問題点も浮き彫りになった。高代氏は2つ指摘した。 「8回に先頭の山田が四球で出塁し、坂本がバントで送ったが、相手投手はクイックができず1.6から1.7秒はかかっていた。まず走らせて、そこからバントだった。相手の隙をつく細かい野球が日本の持ち味。山田もベンチも察知力を持っておきたい」 この時点で1点差。ドミニカの巨漢のディアスはクイックがまったくできていなかった。1.5秒かかれば、まずセーフになる。まして山田には足がある。盗塁を決めてから坂本に送らせ、一死三塁の場面を作るべきだったのだ。そして、この一死二塁から吉田(オリックス)がうまくバットを合わせ高いバウンドで三遊間を越えていくヒットを打った。ドミニカのレフトのミエイセスの動きは俊敏ではなかったが、ダイレクトでホームへ返球し、間一髪ながら山田は本塁で憤死した。稲葉監督がルールで一度だけ認められているリプレー検証を要求したが、滑り込んだ足よりタッチが先だった。