異例の病院更改で年俸1億円突破の西武・平良海馬が抱く次なる野望とは…「山本由伸のような支配的投手」
ストレートが160kmをマークしたプロ野球史上、日本人選手で6人目の豪腕ながら、今シーズンは意図的にストレートの割合を40%強にとどめた。スライダーやカットボール、チェンジアップを多投した理由を、平良は自身のストレートの“質”にあると明かした。 「僕のストレートはファールされることが多い。たくさんファールされてもしょうがないので、変化球で空振りを狙うとか、ゴロを打たせた方が効果的かなと思って」 豪腕の残像がちらつく分だけ、対峙する打者は変化球に翻弄される。球数を少なく抑えられれば、たとえ登板数が増えても右肩への負担が軽減できる。進化を遂げた証が、一軍のマウンドに立って3年目で初めて達成した「被本塁打ゼロ」だった。 当然ながら来シーズンも、硬軟織り交ぜてマウンドに君臨する。 「なるべくフライは打たせないピッチングをできれば。いい手応えがあったので来シーズンも変えずに、打者の反応とか自分の感覚も取り入れながらいいピッチングをしたい」 MLB球団が導入して久しいポータブルのトラッキングシステム、ラプソードを自費で購入し自身のボールの回転数などのデータを常に取得。出陣を待つブルペンで積み重ねてきた自己探求の末に、自身のストレートの質も把握できた。 成長するためには自身への先行投資を惜しまなかった男は、1億円プレーヤーになったいま、何を買い求めるのか。返ってきたのは意外な言葉だった。 「僕は何か高級なものを買うようなタイプじゃないので。コンビニに行ったら値段を見ないで買う、という感じでプチ贅沢をしてみたいですね」 マウンド上での威風堂々とした姿を、いまから連想させる言葉の数々。それでいて童心も忘れない平良に、続いてオンラインで対応した渡辺GMも、再入院に「大事には至らないし、キャンプにはまったく支障がない」と断りを入れた上で目を細める。 「後ろの難しく、タフなポジションを1年間しっかりと担ってくれた。数字的にも文句のつけどころがないし、球団としても最大限の評価をしました」 10月に入って日本ハムに抜かれ、本拠地を埼玉県所沢市へ移転した1979年以来、実に42年ぶりとなる最下位に沈んだチームで、5800万円のアップは最大の昇給額となる。 平良自身は「まだ決まっていない」と言及を避けた来シーズンの役割を、同GMは「やはり後ろでしっかりとやってほしい」と守護神として思い描いている。 「後ろのポジションで投げるピッチャーのなかでは一番安定感があるし、平良が出てきたら大丈夫だと現場も、ファンのみなさんも思うはずなので」 八重山商工(沖縄)時代は甲子園出場と無縁だった。それどころか2年生の夏までは外野手と兼任で、最上級生になって専念したピッチャーでは公式戦で1勝もできなかった。無名の存在ながら2017年のドラフト4位で西武に指名されてプロの門を叩き、ルーキーイヤーの年俸600万円を4年で実に16.7倍に跳ね上げてみせた。 子どもたちに大きな夢を与え続ける豪腕は、もっと若い番号でもいいのでは、という球団の提案を受けたなかで来シーズンも「61」を背負い、名前をもじって「平良海魔神」と呼ばれる豪腕がまとうオーラをもっと、もっと強大にさせていく。 (文責・藤江直人/スポーツライター)