南海トラフ震源、AIで「誤差数キロ」まで迅速に推定…津波の高さ・到達時間など予測精度向上へ
南海トラフ地震の発生時に、より正確な震源の位置を迅速に推定できるシステムを国立研究開発法人・海洋研究開発機構のチームが開発した。人工知能(AI)を活用し、従来手法での20キロ・メートル前後の誤差を数キロまで抑えられる。津波の高さや到達時間、激しく揺れる地域といった予測の精度を向上させ、適切な避難行動につなげるのが狙い。2025年春にもシステムを公開し、実用化を目指す。 【図】一目でわかる…震源の位置をより正確に推定するイメージ
地震発生時、気象庁は各地で観測した地震波を基に震源地を推定し、緊急地震速報や津波情報の運用に生かしている。地震波は地下構造に応じて複雑に伝わるが、震源地をより速く算出しようと、地下構造を単純化したモデルを使っている。
そのため実際の震源とずれが生じる。24年8月に宮崎県沖の日向灘で発生した地震では、震源の位置を深さ20キロと推定した緊急地震速報が出されたが、その後、約30キロと修正された。
同機構はより実際に近い震源の位置を自動推定できるシステム作りに着手。南海トラフ地震の想定震源域の地質などを反映した3次元モデルを独自に作成し、活用することにした。
3次元モデルを使った計算は時間がかかることが課題だったが、AIを活用して高速計算ができる新システムを開発した。
南海トラフ地震を想定した計算実験を行ったところ、従来手法では約20キロの誤差が出るケースがあったが、このシステムを使えば、より正確に推定できることを確認。計算自体は5秒程度で済み、緊急地震速報を出すまでの時間も現行平均の20秒程度とほぼ変わらなくなる見込みだという。
ただ実用化するには、地震の揺れや津波の高さなどをどこまで精度良く予測できるかを実際に示す必要がある。同機構は近く、システムを研究者向けに公開し、過去の観測データを使った解析などを通じて有効性を検証してもらう計画だ。
チームの縣(あがた)亮一郎・同機構研究員(計算地震学)は「数年後には民間業者による津波予報などに活用してもらい、最終的には気象庁の緊急地震速報や津波警報へのシステム導入を目指したい」としている。