【パリ五輪・パラリンピック】バヌアツの卓球選手とインドのパラ柔道選手をサポートする日本人コーチの存在?
<不満をあらわにする選手も>
ただ、中には基本を繰り返し練習することに対し不満をあらわにする代表選手もいたそう。練習に対する選手たちのモチベーションが低く、無理やりやらせている気分だったと言います。着任した当初は、新しい場所や経験に対する楽しさの方が大きかったものの、しばらく経つと、選手たちの練習態度に対する焦りや不安が勝るように。障害者柔道の指導は長尾さんにとっても初めての経験で手探りの部分もありました。 「選手のための練習なのに、なぜ分かってくれないのか」。泣きながら協会に相談した時、「そんなに焦らないで」「ここはインドだから」という言葉をかけられ、インド人選手の考え方や取り組み方も尊重しなければと、気持ちを切り替えたと言います。 長尾さんの指導により、パーマー選手、コキーラ選手は、技術的にも精神的にも飛躍的に向上していきました。2022年12月に東京で開催された視覚障害者柔道の国際大会「東京国際オープントーナメント」で、パーマー選手が優勝。これは、健常者も含めたインド柔道界において、国際大会初の優勝者という大きな快挙でした。本大会ではコキーラ選手も準優勝の成績を収め、続く2023年10月のアジアパラ競技大会でもパーマー選手は準優勝、コキーラ選手は3位と、男女共に輝かしい成績を残せるように。インドのモディ首相が、SNSで2人の活躍への賛辞と激励の言葉を投稿するなど、インド国内での期待も高まっています。 「メダルを取る度に、『長尾のおかげだ』と言ってくれるのがうれしい」と話す長尾さん。今回、自身としても初めてコーチとしてパラリンピックに同行します。大会の目標を尋ねると、「カピル(パーマー)は絶対金メダルを取ってくれる。コキーラも必ずメダルを取ります」。選手への絶対的な信頼を、笑顔で話してくれました。
<全ての人々がスポーツを楽しめる世界に向けて>
このようにJICA海外協力隊は、途上国でオリンピックやパラリンピックに出場するようなトップアスリートも指導・育成していますが、それだけではありません。JICAは初心者や高齢者、障害者など、すべての人が公正かつ公平にスポーツに参加できるように、また特に障害者や女性の社会参画を促進するための自己肯定感を高める場として、スポーツへの参加機会を提供しています。 スポーツには、言語や人種・民族、年齢、障害の有無などを超えて人々をつなぐ力があります。このようなスポーツの力を借りて、分断されている民族やコミュニティ間の交流を図る平和構築の取り組みも行なっています。人々の可能性を広げ、平和な社会を実現するために、これからも「スポーツの力」を活用した協力を促進していきます。