【陸上】再び歩き出した王者――競歩・山西利和の中にいたもう一人の自分「矛盾を許すのか、許さないのか」
まだ歩き続けてくれた――。そう思った。 パリ五輪代表選考会の日本選手権20km競歩が終わってから約2ヵ月後。山西利和(愛知製鋼)はトラックの10000m競歩に出場した。さらにそこから1ヵ月後には、世界陸連(WA)競歩ツアーの20km競歩を2連戦し、ワルシャワ(ポーランド)では1時間19分37秒で3位。 山西利和が復活V 金メダリスト抑える殊勲 五輪代表池田向希は5位 柳井綾音が自己新の1時間29分44秒/WA競歩ツアー 続くラ・コルーニャ(スペインチーム)では1時間17分47秒を叩き出して優勝している。しかも、ブダペスト世界選手権金のアルバロ・マルティン(スペイン)をはじめ、カイオ・ボンフィム(ブラジル)、 ダニエル・ピンタド(エクアドル)、そして池田向希(旭化成)らを抑えて。 やはり、山西は強い。世界中のウォーカーにそんな印象を与えた。 「表彰式で『彼らはまたパリ五輪で戦います』と紹介してくれたんですよ」。そう言って山西は笑った。帰りに「実は出ないんだ」と伝えると、不思議そうな表情をされたという。 神戸での日本選手権は失格に終わった。歩型違反の警告が3回出て12km過ぎに2分間のペナルティーゾーンに入った。その後すぐに4つめの警告が与えられた。人生初の失格。両親や関係者の顔を見ると涙があふれた。 19年ドーハ世界選手権で初めて世界一となり、21年東京五輪は銅メダル。22年オレゴン世界選手権では“連覇”を達成した。しかし、昨年のブダペスト世界選手権では24位と惨敗。東京五輪、そしてブダペストのリベンジをするはずのパリへの道はついえた。 京大を卒業し、愛知製鋼で競技を続けると決めた時から、実業団とはいえ、ある意味でプロ意識を持って取り組んできた。 「1回でも代表から漏れたら辞めるぐらいの気持ちでずっとやってきた。あの頃の自分に嘘をつきたくない気持ちはあるし、今ここで辞めるのもな、という気持ちもある」 簡単に「続けてほしい」とは言えなかった。だからこそ、また歩き始めてくれた時はうれしかった。