【陸上】再び歩き出した王者――競歩・山西利和の中にいたもう一人の自分「矛盾を許すのか、許さないのか」
厚底シューズの自己分析
これまでも、いろいろなチャレンジを重ねてきた。たとえ、結果だけ見れば“失敗”であっても。オレゴン世界選手権のあとに35km競歩にトライしたこともその一つだろう。そして、今回の厚底シューズも。 「シューズに関してはもうちょっと早く戻していたらどうだったかな、というのはあります。他にもいくつか反省点はあるんです。戻したとして、11月から1月までの使い方を考えられなかったか、最後の詰めの部分はどうだったか。当然、湧いてくるのですが、ただ、衝動的な部分でやったところは後悔しようがないと思っている部分もあります。一個人としての価値観的な見方で言えば『それほど後悔するほどのことか?』と思う。ただ、アスリートとしては『最低限のラインを守れなかった。後悔していないと言ってもそれはダメ』と思っています」 ただ、日本選手権後に再びトライした厚底シューズに徐々に適応していく。その結果が、2つの海外レースでの好記録・好結果だった。 「1試合目でまだうまくいかなかったですが、2試合目で動きや接地の場所、タイミングを調節して改善できたと思います。まず、シューズの最も安定する場所が違ってくるので、地面をとらえる姿勢、タイミングが変わります。そこが一番苦労しました」 厚底シューズのメリットについては「正直、衝動で動いている部分がある」といい、「理屈でこっちがいい、というわけではなく、もう一回試したい」というのが本音だった。ただ、世界の潮流から言っても、「かなりメジャーになっている」ことから、後進への一つの“お手本になれれば”という思いも少なからずある。 「前傾姿勢や骨盤との関係というのもわかりますが、個人的には足首が大事なのではないか、と思っています。前足に乗った時に足首が柔らかくて抜けてしまうと力が伝わりません。パワー、重心、体重を乗せていく時に反発を得るためには足首がグラグラすると抜けてしまう。これまでのシューズとでは足首を固めるタイミングや形が異なるのだろうと感じています。この数ヵ月はどう歩けばいいのか、いろいろ繰り返していて、それはそれですごくおもしろいです」 厚底シューズの台頭により、競歩という競技そのものの「転換期」に来ているとも言える。「反則の基準、審判の見る目も変わっていく。ただ、集団が大きいと判定はどうしても相対評価になる。厚底シューズの選手が多くなると、その中で粗い動きの選手が“目につく”わけです。その判定の基準と、これまでのスタンダードとのズレが大きくなると、どう統一していくのかがすごく難しい」と分析する。ただ、これは競歩の歴史でも繰り返し議論されてきたことでもあり、「審判の数を増やすのか、センサーを導入するのか。競歩という種目の在り方について考えないといけないですね」。