卓球が「年齢問わず活躍できるスポーツ」である理由。皇帝ティモ・ボル引退に思う、特殊な競技の持つ価値
晩年のボルの持ち味が凝縮された試合
引退イヤーとなった2024年も、何度も世界のトップ勢力と激戦があったが、卓球ファンの中では3月に行われたシンガポールスマッシュ男子シングルス準々決勝での梁靖崑との一戦は語り草となった。 中国の豪腕、梁靖崑を第1ゲームから19-17へ追い詰める形で試合開始。43歳のボルが淡々と中国のトップ選手相手に得点を積み重ねていく姿は“皇帝”というより“職人”のようにも見える。 その後、ゲームカウントは1-2となり、打ち負ける姿も目立つと、さすがにここまでかというムードが漂う。しかし、ボルが多くのファンから尊敬を集める理由はここからだ。 ループドライブを丁寧に重ねて打ち込み、緩急をつけ、相手を左右へ振る。チキータも混ぜる。たくさんの戦法を駆使しながらも、卓球の基本を忠実に守る。そしてまた、淡々と追いついていく。 乱れない。諦めない。この姿勢に多くの卓球ファンが魅了されてきた。 ゲームカウントは2-2となり、ここから梁靖崑が豪快なドライブで突き放しにかかる。しかし、ゲームカウント3-2とされてからも、また諦めない。むしろ、中国トップの若手のボールが自分のフォア側へ打ち抜かれそうなところを、必死で追いかけることを、楽しんでいるかのようにも見える。長いサーブはフォアで打って出る作戦に切り替えて、3-3と追いついてしまう。 最後は打ち合いで競り負けたが、この試合は晩年のボルの持ち味が凝縮されたような試合だった。
「卓球選手の教科書」の強さの理由
至近距離でとても軽いボールを扱う競技、卓球。 回転量や、打つ角度を工夫するだけで、豪速球と同じように1点が取れること。これこそが卓球の醍醐味の一つだ。 筋力も重要だが、卓球は筋力だけでは捻じ伏せることができない競技であるがゆえ、そこに面白味が生まれる。 だからこそ、年を重ねてもコツコツと練習を重ねることで強さを維持できたり、むしろ進化してしまう面も生まれてくる。 そして、ボルの強さの根源は、やはり諦めない姿勢。試合の中で追い込まれても一球一球を楽しみ、巻き返していく精神力。 ドイツの皇帝と呼ばれるティモ・ボルという存在は、競技へ向かう姿勢を含めて、すべてにおいてまさに「卓球選手の教科書」という言葉がとても良く似合う。