「豆鉄砲打線」が一変 金光大阪を開眼させた元プロOB センバツ
強豪ひしめく大阪から13年ぶりのセンバツ出場となった金光大阪が、夏1回を含め4回目の甲子園大会で待望の初勝利を果たした。第94回選抜高校野球大会(毎日新聞社、日本高校野球連盟主催)第3日の21日、第2試合で日大三島(静岡)を4―0で降した。創立・創部40周年、甲子園初出場(第74回センバツ大会)から20周年の節目。長年の夢を共にかなえたのは、20年前の初出場時のエースでプロ野球・中日ドラゴンズ元投手の吉見一起さん(37)。一回の3点先取につながる中前打を放った4番・岸本紘一主将(3年)は「この一年、いろいろなことを教えてもらった。『甲子園で校歌を歌って』と言われていたので良かった」と感謝した。 【日大三島(静岡) vs 金光大阪(大阪)】 吉見さんは同校のある大阪府高槻市と同じ府北部の吹田市で小中学校時代を過ごした。高校入学当初は「甲子園に出たいとか、エースになりたい、プロに入りたいとは思わなかった」と語る。だが、高2の秋、身長180センチからの140キロの速球と、制球と切れのいいスライダーを武器に大阪大会で優勝。近畿大会でも勝ち進み、決勝で報徳学園(兵庫)に3―5と粘り強い戦いをみせた。当時、報徳学園を指揮していたのが、この日の相手・日大三島(静岡)の永田裕治監督だった。 15年間のプロ生活から2020年限りで引退した吉見さんは、そのオフ、プロ野球経験者が高校、大学で指導するのに必要な「学生野球資格回復制度」の課程を受講し、認定を受けた。プロ入団前に所属した社会人野球・トヨタ自動車でテクニカルアドバイザーを務める傍ら、21年6月ごろから月1~2回、母校の指導にも赴くようになった。 引退直後は「プロで指導することしか頭になかった」が、「今はまだ投げられる体。高校生で僕より速い球を投げる投手はいるが、球の質ではまだまだ負けない」と、後輩たちの臨時コーチを引き受けた。金光大阪の昨秋のチーム打率は2割7分7厘。目立った強打者はなく、横井一裕監督が「豆鉄砲打線」と呼ぶほどの貧打だった。 元トッププロの球は簡単には打ち返せない。だが、吉見さんの球を何度も見るうちに特徴に気づいた選手がいた。捕手の岸本主将だ。今月1日にあった同校での練習。打席に立つと、吉見さんの球をしっかり見ることを心がけた。 打撃練習後、1983年から同校に勤務し長年野球部で指導を続ける桜井富男部長(61)にこう話した。「吉見さんの球は手元で変化します」。高校生相手では見ることがない球の軌道を目の当たりにし、チーム全体で「球を引きつけて打つ」という打撃の基本を徹底した。吉見さんは今月15日にも母校を訪れてシート打撃に登板。甲子園初勝利につながった。 試合が当初予定の20日にあれば吉見さんも甲子園を訪れるつもりだった。雨天順延でかなわなかったが、待望の知らせに「一回に相手の好機を抑え、逆に3点取れたのが大きかった」と評価。「長く指導してくださっている桜井先生、横井監督に甲子園での勝利をプレゼントしたかった。高校生は成長のスピードが早く、いろんなことを学ばせてもらっている。感謝したいのは、こちらの方だ」と語った。【山口一朗】 ◇全31試合をライブ中継 公式サイト「センバツLIVE!」(https://mainichi.jp/koshien/senbatsu/2022)では大会期間中、全31試合を動画中継します。また、「スポーツナビ」(https://baseball.yahoo.co.jp/hsb_spring/)でも展開します。