中国人民解放軍で再び大粛清、最高幹部が相次ぎ失脚…習近平派閥の筆頭がなぜ?台湾武力統一の動きに深刻な影響も
■ 失脚説(2)解放軍主流派が「習近平の代理人」を失脚させた? 苗華の失脚は、制服組トップの張又侠主導による軍内反習近平派によるものだ、という可能性だ。 魏鳳和ら部下を失脚させられた張又侠が、三中全会直後に解放軍内実力派をまとめて、習近平に対抗しているという説をそのまま踏襲した分析だ。軍内における習近平の代理人の苗華を制服組トップの張又侠が失脚させたことで、習近平vs解放軍主流派という構図の権力闘争が激化、いわば静かなクーデターの始まり、という見方だ。 いずれの説が真実に近いのか、あるいはまったく我々の検討と違う事態が起きているのかは、今後の推移を観察していくことでわかってくることもあるだろう。 だが一つ言えることは、この習近平政権内、あるいは解放軍内には複雑で激烈な権力闘争がやはり継続しており、そのことが習近平の台湾武力統一計画の行方に大いに影響がありそうだ、ということだ。 解放軍の優秀な軍人の多くは、解放軍に台湾武力統一が少なくとも2027年までに実現できるような実力はないことはわかっている。長らく失踪中の解放軍随一の戦略家とうたわれた劉亜洲は台湾武力統一放棄論を主張して、習近平から失脚させられた、と言われている。 習近平の愛将、苗華の本音が、台湾武力統一派なのか、あるいは台湾武力統一回避派なのかは、今のところ諸説ある。苗華がもし林彪的な人物であれば、表向きは習近平に忠実であっても、本音では台湾海峡での戦争は回避したいと思うのではないか。そのあたりが、習近平に疑心を抱かせる要因であっても不思議ではない。 現状、解放軍は習近平の意志に従って台湾武力統一を視野に入れた、台湾に対する「グレーゾーンの侵略」を開始しているように見える。海軍派閥トップの苗華が失脚したことで、海軍が重要な役割を担っている台湾武力統一の動きにブレーキをかけるかもしれない。だとしたら、この苗華派閥の粛清の動きは我々にとっては朗報だ。 だが、もしも苗華失脚が解放軍の反習近平派によるものであり、一種の政変的な動きにつながるような展開になれば、中国の政治と軍のコントロールが崩れ、予測できないようなリスクも勃発するかもしれない。 福島 香織(ふくしま・かおり):ジャーナリスト 大阪大学文学部卒業後産経新聞に入社。上海・復旦大学で語学留学を経て2001年に香港、2002~08年に北京で産経新聞特派員として取材活動に従事。2009年に産経新聞を退社後フリーに。おもに中国の政治経済社会をテーマに取材。主な著書に『なぜ中国は台湾を併合できないのか』(PHP研究所、2023)、『習近平「独裁新時代」崩壊のカウントダウン』(かや書房、2023)など。
福島 香織