中国人民解放軍で再び大粛清、最高幹部が相次ぎ失脚…習近平派閥の筆頭がなぜ?台湾武力統一の動きに深刻な影響も
■ 失脚説(1)台頭する苗華派閥を習近平が排除? 一つは習近平自身が苗華に対する疑心を募らせてきて、失脚させた、という見方だ。人気華人チャイナウォッチャーの文昭の説明を引用すれば、苗華の“林彪化”だ。 魏鳳和、李尚福と国防部長の連続失脚、そして魏鳳和の古巣であるロケット軍(旧第二砲兵団)の幹部たちの大粛清は、魏鳳和が習近平の信頼を失ったことによるドミノ式失脚と言われている。魏鳳和は、習近平の親友とされる張又侠(中央軍事委員会副主任、制服組トップ)が習近平に推薦したことで、習近平の寵愛を受けて出世した。 オーストラリア在住の華人チャイナウォッチャーの袁紅冰によれば、魏鳳和が国防部長になったときに、習近平は台湾統一計画とロシアからの旧清朝領土奪還の戦略について魏鳳和に意見を求めたという。魏鳳和はプロの軍人らしい正しい分析の結果、習近平の世界戦略について否定的な意見を述べたらしい。それが、習近平が魏鳳和の忠誠を疑うきっかけになったと言われている。 ロケット軍とは戦略核ミサイルを主管する部署であり、その戦略知識は米軍に学ぶところが多く、解放軍内でも米軍に対する評価が高い傾向にある。習近平は2027年までの台湾統一戦略に対してポジティブな意見を期待していたようだった。それを魏鳳和に全否定され、しかも、自分の側近や部下たちに、習近平の軍事的無知を笑うような発言をされた。このことが軍内のスパイによって習近平に告げ口された、というのが魏鳳和から始まるロケット軍幹部の大粛清の背景にある、とまことしやかに伝えられている。 魏鳳和派閥の失脚により、魏鳳和を習近平に推薦した張又侠の立場も危うくなったとされ、7月の三中全会でその進退が注目されていた。三中全会から8月初旬の北戴河会議のころは、張又侠と公安部長の王小洪が手を組んで、習近平から政治実権を奪うクーデターを起こした、あるいは軍の実権を習近平から奪ったといった噂も広がった。 だが、10月に張又侠がベトナムに公式訪問したことで、クーデター説や習近平と張又侠の対立先鋭化説は打ち消された。もし軍の実権をめぐり張又侠が習近平と権力闘争の真っ最中であれば、3日も北京を留守にはできない。むしろ習近平は親の代から続く高齢の親友である張又侠に情けをかけ、魏鳳和の失脚に連座させなかった。張又侠の軍内の影響力は完全に低下し、引退までのアディショナルタイムを大人しく従順に過ごすことにしたのではないか、という見方が広がった。 張又侠の影響力が低下したその代わり、苗華派閥が解放軍に幅を利かせるようになった。習近平は徐才厚・郭伯雄派閥を粛清し、魏鳳和派閥を粛清し、軍内に習近平に刃向かいそうな軍人をすべて排除し、自分の子飼いの苗華人脈が新たな派閥を形成していた。 習近平は、今度は自分が信頼していたはずの苗華の裏切りを恐れるようになった、というわけだ。 これはまるで、林彪みたいではないか、というのが文昭だ。毛沢東が中国初代国防部長の彭徳懐の人気をねたんで失脚させるために林彪に権力を与えたものの、最終的に毛沢東自身が林彪を疑い、粛清、暗殺した状況に似ている。 林彪日記によれば、林彪も内心は大躍進を批判していた彭徳懐と同じ意見だったらしいが、実際の権力闘争の流れの中では林彪は彭徳懐を激しく批判し、大躍進を擁護し、毛沢東に忠誠を誓い、毛沢東語録も主導し文革に加担した。だが、結局、毛沢東に忠誠を疑われ、逃亡を企てるも暗殺されたのだった。 もう一つ、全く別の見方がある。