「認知症は防げない。でも、遅らせることはできる」脳の老化を遅らせる方法とは【和田秀樹×草野仁対談⑥】
競馬はボケ予防に最適
和田 草野さんの一番の趣味は競馬ですか? 草野 競馬は学生時代、今から58年前からです。スポーツ紙で「今年のダービーの売上げが20億円に達するだろう」という記事を読んで「なんでそんなに人気があるんだ?」と気になって中山競馬場に向かいました。 和田 行動が素早い(笑)。そこでハマってしまった? 草野 メインレースに出る強い馬たちをパドックで見たんです。1頭1頭、鍛えられた肉体が美しくてね。本場イギリスで「キング・オブ・スポーツ」と言われる理由がわかった気がしました。数年後に、馬券も買うようになりましたが、決してうまくいかない(笑)。 和田 競馬は脳的にもいいんですよ。推測することも含めて。 草野 やっぱりね(笑)。私はジョークも交えて「競馬健康法」と言っています。 和田 競馬健康法ですか? 草野 はい。例えば認知症になると今日の日付を忘れてしまう方がいます。ですが競馬は1週間の日程が決まってるから忘れません。土・日にはレースが行われ、月曜日には記録が載った週刊誌が出ます。水曜日には馬たちがレースに向けて練習をする。調教と言うんですが、そのデータも見たくなる(笑)。そして金曜日には明日はレースだとワクワクする。1週間の日程がびっしり決まってるので、曜日や日付を忘れようがない(笑)。 和田 (笑)。 草野 競馬場のスタンドから観る景色は美しいですよ。一面に緑が広がっていましてね。昔は秋には枯れたのですが、今はいろんな改良を施してるので、ずっとグリーンです。すごく気分がよくなります。 和田 心の健康にもいい。 草野 競馬は12レースありますが、全部に参加する必要はありません。でも仮に参加したとすると、1レースずつパドックに移動して馬を見たくなる。中山競馬場で、その往復の歩数をカウントしたら1日6000歩でした。行き帰りの電車の歩数も含めたら1万歩になります。 和田 なるほど。確かに競馬健康法ですね(笑)。 草野 競馬は私にとって仕事のひとつでもあります。今はJRAの競馬チャンネルで、月に一度、ゲストをお呼びしてインタビューをしているんです。『Gate J.プラス』という番組です。 和田 ギャンブル的なものって、予測をすることで頭を使うんですよ。しかも、意外性もあるので前頭葉も刺激されます。 草野 過去のレースも記憶してないといけませんからね。 和田 そうですね。だから頭の使い方としてはとてもいい。もちろん無茶な賭け方をしなければという前提付きですが。 草野 和田先生、競馬は? 和田 僕は、あらゆるギャンブルが経験的に下手だとわかっていまして。麻雀もパチンコも、ラスベガスではカジノもやったけど、何をやっても瞬時に負ける。だからやらない(笑)。 草野 負けるのは執念が足りないからです(笑)。 和田 そうかもしれませんね。 草野 今日はとても楽しかったです。本当にありがとうございました。和田先生の著書を読むと、懐の深さを感じます。普通の医師は定型的なものの見方をしますが、先生は体験をもとに本質を突いておられます。 和田 こちらこそ勉強になりました。やはりうまく年を取られている方から学ぶことは多いですね。ありがとうございます。 和田秀樹/Hideki Wada 精神科医。1960年大阪市生まれ。東京大学医学部卒業。現在、立命館大学生命科学部特任教授、和田秀樹こころと体のクリニック院長。老年医学の現場に携わるとともに、大学受験のオーソリティとしても知られる。『80歳の壁』『70歳の正解』など著書多数。 草野仁/Hitoshi Kusano キャスター。1944年旧満州生まれ。東京大学文学部社会学科卒業後、NHKに入社。1985年に退社しフリーに。『太陽生命 Presents 草野仁の名医が寄りそう! カラダ若返りTV』(BS朝日)でMCを務める。『「伝える」極意』(SB新書)が発売中。
TEXT=山城稔 PHOTOGRAPH=筒井義昭