地域特有の文化資源の発見と再生 岐阜の限界集落で取り組む夫妻に見るビジネスの新しい視点
地域文化を守り、つなげる取り組みが増えている。日本各地には土地特有の文化があり、世界を見渡してもこれほど多様な文化が残る国は少ない。他方、開発や過疎によってその文化が失われつつある地域がいくつもある。こうした土地に暮らし地域特有の文化資源を発見して再生する人々の取り組みからは、ビジネスや暮らしの新しい視点が見えてくる。 【画像】地域特有の文化資源の発見と再生 岐阜の限界集落で取り組む夫妻に見るビジネスの新しい視点
水力発電と伝統民衣、石徹白の文化をつなぐ夫妻の挑戦
福井県との県境の険しい山道を車で上ること30分。標高700mの山間に人口約200人の石徹白(いとしろ)集落がある。集落には4つの小規模水力発電設備があり、そのうち2機が北陸電力と接続していて発電量は集落の電気使用量の280%。驚くのは2016年に竣工した最大出力125kw(約150世帯分)の「石徹白番場清流発電所」を集落ほぼ全世帯出資で建設した点にある。建設費2億4000万円のうち3/4は自治体からの補助を受けたというが、通常、電力会社や企業、行政が運営することが多い発電所を集落で運営している。小規模水力発電は水量と落差があればどこでもでき、石徹白では農業用水路を活用して発電しているため環境影響はほぼないという。
「石徹白番場清流発電所」の売電収益は年間約2400万円。単純計算すると10年で原価償却できるが、15年の返済計画を立て、利益を地域の課題解決に充てている。例えば、耕作放棄地の再生や移動販売の誘致などを行っている。
限界集落の存続に取り組むのは2011年に石徹白に移住してきたNPO法人地域再生機構副理事長の平野彰秀さんだ。平野さんの妻は以前「WWDJAPAN」でも紹介した「石徹白洋品店」を営む平野馨生里さんで、夫妻でかつて石徹白地区に根付いていたサステナブルな暮らしの知恵を復活させようと取り組んでいる。
集落の存続のために事業する意味
平野夫妻が目指すのは「縄文時代から続く集落の文化をつなぎ、当たり前の暮らしが当たり前に続いていくこと」。馨生里さんは石徹白に伝わる民衣の作り方をおばあさんから聞き、現代服にアレンジして提案している。実は彰秀さんが取り組む小規模水力発電も石徹白では1913~55年まで行われていたという。夫妻はかつて石徹白で行われていたことに取り組みながら、持続可能な集落の在り方を模索している。