葛西臨海公園をアートが彩る。蜷川実花、落合陽一らの作品が集う「海とつながる。アートをめぐる」が開幕
4万本のひまわり畑に出現した平子雄一、落合陽一、河瀨直美の作品
4万本のひまわりが咲くひまわり畑に大型の彫刻作品を制作したのは、植物や自然と人間の関係性をテーマに制作を続ける平子雄一。 《Wooden Wood 73》と題された本作は、「材木になった木を、自然の造形に戻す」というコンセプトで制作している木彫のシリーズに連なる一作だ。ひまわり畑での制作を依頼された際は、「ひまわりは自然の造形なので、それぞれが作り出す造形があり、僕たちが介入できない。僕が作る自然のような造形は、僕が作り出すものなので、その対比が発生すると思った」と平子。 無数のひまわりを背景に、平子作品の象徴的な存在である木と人間が一体化した人物がそびえ立っている。本や野菜、果物、犬や猫などはいずれもこれまでの平子作品でも描かれ続けてきたモチーフだが、積み上げられた本は、人間が発展させてきた文明の象徴であり、オレンジ色の果物は、未来の自然や環境と人間の関係について考え、あえて不自然な色をしているという。また左に佇む猫は、自然にも住むことができ、人間とも共存できる、中間の存在として作品に登場させている。 「(鑑賞者が)最初は『かわいい』というところから入って、その後『なんだろうこれ?』という感じで近づいて見て、おうちに帰ってから『なんだったんだろうね。自然のものもあるし、でも周りにある自然とは違うし、それってどういう意味なんだろう?』というふうにちょっとでも考え始めると、また面白い視点がみなさんのなかに生まれたりするのかなと思う」(平子) 平子の作品の向かい、観覧車とひまわり畑を背に設置された横長のスクリーンでは、落合陽一の作品《リキッドユニバース:向日葵の環世界のコペルニクス的転回》が展開されている。 横幅8メートルほどのスクリーンに映し出されているのは、AIが作り出したひまわりの映像。ひまわり畑という自然、人工物である観覧車、そしてデジタルが生み出すひまわりという3つの要素が対比され、また相互に関わり合うことで、見る者の知覚や認識に問いを投げかける。 デジタル革命によって新たなパラダイムが起きている現在において、「人間中心の世界を脱し、人間が自然の流れに従って無心で自由に生きることを目指す」という中国の荘子が説明した言葉「逍遥遊」を具現化した作品になっているという。 映画監督の河瀬直美は、テキストによる作品《隠されたもう一人の私。ひまわり畑での問いかけ》を発表。 短編映画をイメージして作られた本作では、ひまわり畑の中にメッセージが書かれた8枚のボードが点在している。メッセージを読む順番は決められておらず、鑑賞者は自由に畑の中を歩き回りながら一つひとつのメッセージと出会うことになる。 河瀬は「自分の中に見え隠れする、もう一人の自分と出会う」をコンセプトに本作を制作。来場者がひまわり畑の中で突然出てくるいくつかの問いかけをまるで人生の分岐点に立ったような感覚で鑑賞し、自分の内側と対峙しながら自己を発見したり、自分とのつながりを思い出したりするような旅へ誘うイメージで作られたのだという。 4組のアーティストによる作品は、すべて葛西臨海公園での展示のために制作されたもの。杉山は、「時間や天候などで変化していく空間のなかで存在するアートが、海と自然、そして人と自然とのつながりを再認識するようなきっかけとなり、葛西臨海エリアの新しい楽しみ方を感じてもらえれば」と呼びかけた。
Minami Goto