“撮り鉄”の迷惑行為が続発も…最古の国産蒸気機関車「SL人吉」のラストランは、なぜ混乱と無縁だったのか “安全対策”につながった「超人気アニメ」とは
人気アニメとの「コラボ列車」で積んだ経験
さよなら運行当日は、SL人吉より1本早く博多駅を出て熊本方面に向かう列車にJR九州の社員と鉄道警察隊が乗り込み、直前の情報を収集。同時に危険な場所に集まるファンに警告した。 「一本前の列車の中から人の集まり方を見て、例えば線路への入り込みがありそうな場所を把握し、その情報をこれから通るSL人吉のスタッフと共有しました。その場では警笛を鳴らすことで集まっている人たちに危険だと知らせました」(JR九州担当者) 「玉名駅、大牟田駅、熊本駅では人が密集して危ない場所があり、乗り込んでいた隊員が拡声器で注意を促し、分散してもらいました。みなさん和やかに従ってくれました」(鉄道警察隊副隊長) このようにJR九州、博多署、鉄道警察隊が地道に安全対策を積み重ねたことで、SL人吉のさよなら運行は大きな混乱も遅延もなく、無事に終了した。 なお今回、こうした対策をした背景には、人気アニメとのコラボ列車の経験があったという。 「2020年に『SL鬼滅の刃』を運行した際の経験が生きていると思います」(JR九州担当者)
定時運行の裏にある乗客には見せない努力
「SL鬼滅の刃」とは、人気アニメの映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」とコラボした臨時列車。2020年11月~12月に10日間運行された。ハチロクのナンバープレート部分は、映画に登場する蒸気機関車と同じ「無限」のプレートに変更された。チケットはあっという間に完売。人気は凄まじく、運行当日には駅や沿線に多くの人が押し寄せた。鉄道警察隊副隊長によれば、 「あの時は踏切近辺で場所取りのいざこざなどがありました。対策を始める時期が遅かったということもあり、今度こういうことがある時は早めに話しましょうとお話ししたこともあったんです」 この時の経験がSL人吉ラストランの安全対策につながったというわけだ。 日本では当たり前のように定時に到着する列車に乗り、利用者はその裏側を気にすることもないが、鉄道の定時運行と安全は、鉄道会社と協力組織の日々の努力の積み重ねによって成立している。 ハチロク最後の営業運転イベント「ありがとう! SL人吉」がきれいに終えられた背景には、乗客には一切見せないそんな努力と、経験から生まれた知恵の結晶があった。 まもなく迎える6・14「やくも」ラストランは、無事に終えることができるか。
華川富士也(かがわ・ふじや) ライター、構成作家、フォトグラファー。記録屋。1970年生まれ。長く勤めた新聞社を退社し1年間子育てに専念。現在はフリーで活動。アイドル、洋楽、邦楽、建築、旅、町ネタ、昭和ネタなどを得意とする。過去にはシリーズ累計200万部以上売れた大ヒット書籍に立ち上げから関わりライターも務めた。 デイリー新潮編集部
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