「あなたは母親にならない方がいいと思う」不妊治療中にいわれた言葉を日々考えながら…“減点方式”の育児に追い詰められる「母親たち」へ(レビュー)
「育児は減点方式だと思う」。そう語るのは、1年ほど前に出産を経験したドラマプロデューサーの佐野亜裕美さん(42)だ。佐野さんは、『カルテット』や『エルピス』など、受賞歴のある人気ドラマに数多く携わってきた。 “女が子供を産み育てることは普通にできて当たり前”という暗黙の了解がある現代社会での育児は、佐野さんをどんどん追い詰めていった。今日は離乳食を食べてくれなかった、絵本を読んであげられなかった……と、毎日“減点”が積み重なり、できなかった自分を責めたそうだ。 さらに、不妊治療中には「あなたは母親にならない方がいいと思う」と知人に言われたことで、ちゃんと“母親”をやれていないような、漠然とした不安がずっと続いているという。 そんな佐野さんが、こうした思いを抱える母親が「自分だけじゃないんだ」と感じられるようになったのは、『母親になって後悔してる、といえたなら 語りはじめた日本の女性たち』(高橋歩唯/依田真由美・著)を読んでからだという。 この本を読み、「他の誰かの気持ちを楽にすることもあるかもしれない」と佐野さんが語ってくれたのは、決して簡単には明かせない経験や、胸に秘めてきた思いだった――。
流産したときも「やっぱり自分は母親になるべきではないのか」と感じた
「あなたは母親にならない方がいいと思う」と言われたことがある。 その言葉を聞いた時、なんだか妙に納得してしまった。こんなに独善的で他者に厳しくて不寛容な自分が、子供を愛せるような気がしなかった。ちょうど不妊治療を続けるかどうか悩んでいた時だったから、そこでやめればよかったのかもしれない。それでもなぜか諦められなかった。まあ40歳までは続けてみようと治療を継続したものの、その言葉は絶えず私につきまとった。不妊治療にまつわる様々な選択をするたびに「母親にならない方がいいお前が、本当に母親になる気なのか?」と誰かに問われているような気持ちになった。流産を経験したときには、「やっぱり自分は母親になるべきではないのか」と感じた。 その後妊娠し安定期に入った時、その人に妊娠のことを伝えざるを得ない状況になって伝えたところ、(それはもちろんそうなるだろうとは思っていたけれども)非常に喜んでくれた。そして私は思い切って聞いてみた。私のどういうところがそう思わせたのか? と。 「そんな言葉を言ってしまったことを申し訳なく思う。その上で、なぜそう言ったのかと聞かれたら、こう答える。あなたはまだ自分自身を本当の意味で大切にできていないように見える。自罰と自責をやめられない限り、その自罰の刃は必ず自分を貫いた後に子供に刺さると思う」