味の素はなぜ「おいしさ」を消費者に伝えられるのか? クリエイティブを支える、科学的コミュニケーション思考
サードパーティCookie廃止の取りやめ、ソーシャルメディアの分断、ユーザー行動の細分化など、デジタル上の環境はその複雑さを増している。 味の素はなぜ「おいしさ」を消費者に伝えられるのか? クリエイティブを支える、科学的コミュニケーション思考 広告を含めた従来のコミュニケーション手法をアップデートし、マーケティングドリブンな取り組みを加速させるため、2023年4月に「マーケティングデザインセンター」を設立したのが味の素だ。同社は消費者の信頼と購買につながるコミュニケーションをいかに設計し、実現させているのか。 今回は、マーケティングデザインセンターのセンター長で執行役員常務の岡本達也氏と副センター長の向井育子氏に、味の素のコミュニケーションの根本にある戦略と理想のクリエイティブを生み出すための思考について話を聞いた。 両氏が挙げた、消費者に受け入れられ、態度変容を起こすコミュニケーションを実現する重要な要素──それは、「妄想」や「憑依」レベルまで考え抜いた徹底的な消費者理解と、それに裏打ちされたクリエイティブの「面白さ」だ。 ◆ ◆ ◆ DIGIDAY編集部(以下、DD):コンテンツや情報が溢れているいま、伝わるコミュニケーションを設計する上で重視していることはあるか。 向井育子(以下、向井):コミュニケーションで重要視しているのは、生活者を見ることだ。我々がメーカーとして一方的に伝えるのではなく、生活者の気持ちを考え深掘りする必要がある。興味関心があることはなにか、そこに対しどのような表現をすれば態度変容が起きるのか、フラットな視点で考えている。 態度変容を起こすには、面白いクリエイティビティが不可欠だ。我々のメッセージを単純に理論で押し通しても、消費者には届かない可能性が高い。押しつけのクリエイティブではなく、生活者が面白いと感じる表現を生み出すため、インサイトを調査するなど試行錯誤している。加えて、生活者の想いや考えを「妄想」するようなアイデアも大事にしている。 岡本達也(以下、岡本):20年前、メディアは新聞やテレビのように受動的だったが、いまは態度や接触のありようも大きく変化した。消費者がさまざまな場面でどのような状態にあるのか、ある瞬間に、こういうクリエイティブなら受け入れてくれると想像し、設計できているかどうかがポイントになってくる。 マーケティングデザインセンターのメンバーにも常に、「モーメントを捉える努力、生活者がその瞬間にどういう考えになるのか憑依するレベルまで考え抜くべきだ」と話している。そこまでしなければよいクリエイティブは作れず、最適なメディアプランニングも実現しないと考えているからだ。 岡本 達也/味の素株式会社執行役員常務 食品事業本部副事業本部長 兼 マーケティングデザインセンター長。