味の素はなぜ「おいしさ」を消費者に伝えられるのか? クリエイティブを支える、科学的コミュニケーション思考
真摯なブランドの取り組みの先に、「面白い」が生まれる
DD:「妄想」や「憑依」が的を得て、モーメントを捉えた事例を教えてほしい。 向井:「フードロスラ」が象徴的な事例だ。フードロスという社会課題に対しクリエイティビティを発揮し、徹底して面白さを追求した内容になっている。 岡本:フードロスは真面目なテーマであり、そのまま伝えても耳を傾ける人はいない。私自身、「減塩」をテーマに商品開発やコミュニケーションを手がけた経験があるのでよく理解しているが、どれほど素晴らしいテーマであっても、消費者にメーカーからの「説教」のような話を届けていては、うんざりされてしまう。 どうすれば生活者に受け入れもらえるのか、つまりクリエイティブを見た瞬間に面白いと感じてもらえるのかを突き詰めた結果完成したのが「フードロスラ」だった。 DD:実際に拝見したが、とてもユニークでまさに「面白い」と感じさせられる内容だった。 向井:クリエイティブの仕事でもっとも楽しいと感じるのは「好きにやってよい」と言われたときだ。通常はやるべきことをあらかじめ決め、その決めたことに沿っているかどうか確認しながら進行する。それではどうしても、クリエイティビティが発散しきれない。クリエイティビティが発揮されるポイントは、自由にできることだ。 「フードロスラ」も、会社やブランドからの要望ではない、マーケティングデザインセンターによる自主提案のコミュニケーションプロジェクトのひとつ。社会課題というテーマこそ設定されていたものの、それ以外の制約はなく自由に手がけている。「あれがだめ」「これがだめ」という枷がなくなると、「あれが楽しい」「これが楽しい」と発想が自由に生まれてくる。この思考こそが、生活者に面白いと思われるコミュニケーションを作り出す原動力になる。 自分たちで自由に考え取り組めると、どのようなコミュニケーションであってもどう向き合うべきか、どう伝えるべきかがスムーズに設計できる。さまざまなアイデアが生まれ、数多くの選択肢の中から取捨選択し、我々が目指す「面白いクリエイティブ」が完成する。