「モンゴル互助会」を拒否、「貴乃花」も大絶賛…「連続出場記録」だけじゃない39歳「玉鷲」が尊敬を集める理由
注文相撲は取らない
以上のように玉鷲は、モンゴル人だが、日本に最も適応した力士の一人と言えるだろう。しかし、この玉鷲にして相撲協会に残ることができるかどうかは未知数だ。 通常、親方になるには、日本相撲協会の「年寄名跡目録」に記載された年寄の名を襲名する権利、いわゆる「年寄株」を取得する必要があるが、外国人力士は、さらに日本国籍を取得しなければならない。バブル期にはこの「年寄株」が億単位で取引されていたが、2014年に相撲協会が公益財団法人化した際に「何人も年寄名跡の襲名及び年寄名跡を襲名する者の推薦に関して金銭等の授受をしてはならない」という定款を明記した。同じ年に協会は「70歳までの定年後の再雇用」が導入されて「年寄株」の慢性的な不足が問題になっていた。65歳以降も協会に残れば1年で約1000万円近い報酬があることから協会に残る親方衆が今も後をたたない。年寄株の空席は明らかにされていないが105ある名跡のうち「確実に空席なのは2、もしくは3つ」(相撲協会関係者)という状況が続いている。 この流れに、引退した朝青龍や宮城野親方は「強ければ年寄株など必要なし、異議あり」と長年「年寄株の取得は不要」という主張を続けていたが、玉鷲は「日本の伝統文化なのだから当然のこと」と2年半かけて日本国籍取得を地道に進めていた。ところがその玉鷲も相撲協会に「親方」として残れる可能性は高くない。「年寄株」の手配ができないのだ。 横綱・照ノ富士なども同じ苦境にある。通算連続出場を地道に刻み続ける40歳の玉鷲に確実なセカンドキャリアが保証されてない。人気力士だった豊ノ島や松鳳山なども「年寄株」の手配ができずに相撲協会を退職した。玉鷲は、2019年初場所で初優勝した日に誕生した次男(エレムン君)が小学生になるまで、「あと2年は土俵に立つ」と宣言している、愛すべき家庭人でもある。立ち合いの変化など注文相撲は絶対取らない信条で土俵に上がっているが、「年寄株」を確実に手配するまで引退するにもできない複雑な事情もある。
小田義天(おだ・ぎてん)スポーツライター デイリー新潮編集部
新潮社