「衰退ニッポン」が外国人労働者から見捨てられる日
外国人労働者は日本をどう見ているか
外国人労働者が日本を選ばなくなってきているのだ。その背景には日本経済の長期低迷がある。 大きな要因の1つは、日本以外にも外国人労働者を必要とする国が増えていることだ。中国や韓国などでも少子高齢化が進んできている。 JICAなどの推計には、こうした国々における外国人労働者の需要増の影響が加味されておらず、日本より経済成長率が高い国での需要が増えれば、2040年時点の不足人数は42万人より大きな数字となるだろう。 要因の2つ目は、外国人労働者が、長く賃金が抑制されてきた日本に見切りをつけつつある点だ。理由としてはこちらのほうが深刻である。 JICAなどの報告書は、日本への送り出し国について、タイやインドネシア、中国などは減少していくと予想している。一方、ベトナムは2030年まで、ミャンマー、カンボジアは2030年以降も大きく増加すると予測している。 新興国の場合、経済が一定の規模に成長するまでは海外に働きに出る人が多いためだが、日本に労働者を送り出して来た国の経済成長は目覚ましい。2030年以降も来日者が増えると予想されている国々の経済成長が予測より早く、母国での賃金水準も上昇したならば国内にとどまる人はもっと増える。 外国で働くにしても、少しでも高い給与を得られる国を選ぶのが自然の流れだ。ベトナムなどからの労働者が増えるとの見通しは、日本の思惑通りに進むとは限らない。 経産省も同様の懸念をしている。同省の資料によれば、2020年末時点の技能実習生の出身国は、ベトナム(55.2%)、インドネシア(9.1%)、フィリピン(8.4%)で約7割を占める。これら3ヵ国の1人あたりのGDPは現在約3300~3900ドルで日本の10分の1ほどだが、日本との差が縮むにつれて技能実習生として来日する人は減少するとの分析である。 賃金が伸び悩む日本は魅力を失うと見ているのである。「安い日本」は国民生活を疲弊させるだけでなく、外国人労働者をめぐる争奪戦の敗北としてもツケが回ってくるということである。 これに対し、日本政府は外国人労働者が長期間働ける在留資格や職種を拡大すべく検討しているが、「日本離れ」の原因は滞在期間の長さにあるわけではない。こうした対策はあまり意味をなさないだろう。 外国人労働者の長期滞在については「実質的な移民」につながるとの反対意見が多く、世論は二分している。 仮に、大規模に受け入れられる状況になっても、社会の混乱を避けるべく時間をかけて増やす必要がある。だが、そうしている間も日本の勤労世代の激減は続くので、人手不足対策としてはペースが合わず、とても間に合わない。 外国人労働者の受け入れ拡大どころか、日本人の安い人件費と丁寧な仕事ぶりを求めて中国企業が日本国内に工場を建設し、日本人を雇用する動きも見られるようになった。定年退職した高齢者や主婦パートのよい働き口になっているのだという。 外国人労働者の来日に過度に期待し、人手として当て込むことはかなり危険だ。もはや勤労世代が減ることを前提として企業活動を機能させていく術を考えなければならないのである。勤労世代の減少規模を考えると、従業員1人あたりの労働生産性の向上を図るほうが賢明である。 つづく「日本人はこのまま絶滅するのか…2030年に地方から百貨店や銀行が消える「衝撃の未来」」では、「ポツンと5軒家はやめるべき」「ショッピングモールの閉店ラッシュ」などこれから日本を襲う大変化を掘り下げて解説する。
河合 雅司(作家・ジャーナリスト)