大阪万博、500日前にこの状態で本当に開催できるのか(後編) 「万博は儲かるという意識を捨てる」「熱狂は期待すべきではない」…関係者に聞かせたい、専門家2人の貴重な提言
開幕まで500日を切った2025年大阪万博は「経済効果2兆円」や「大阪・関西の成長戦略の柱」といった、経済的側面ばかりが盛んに強調されている。一方で、テーマに掲げる「いのち輝く未来社会のデザイン」で何を実現しようとしているのか、市民に浸透しているとは言い難い。 【前編】大阪万博、500日前にこの状態で本当に開催できるのか「理念もマネジメント能力もない」という実動部隊 問題続きの背景に三つの構造的要因
大阪の関係者が万博にここまでこだわるのは、初めて開催した1970年万博の熱狂が忘れられず「夢よもう一度」と、再現に焦がれる人が多いからではないか。 私は当時、生まれていなかったが、70年万博は確かにすごかった、らしい。世界77カ国が参加し、来場者数は当時過去最多の約6421万人。会場には芸術家・岡本太郎氏デザインの「太陽の塔」がそびえ立ち、アメリカ館には宇宙船アポロが月探査から持ち帰った「月の石」が展示され、長蛇の列ができた。戦後日本が成し遂げた経済成長の集大成とも言える。 ところが半世紀余りたった現在は、当時と様相が全く異なる。インターネットや交流サイト(SNS)の出現で、情報収集の手段や世界との関わり方は多様化し、世界のあらゆるモノを一堂に集めなくても、スマホ一つで簡単に検索できるし見られる。 莫大な費用と手間をかけて万博を2025年に開催する意義はどこにあるのか。専門家はどう考えるのか。万博の歴史に詳しい京都大の佐野真由子教授と、大阪万博の会場運営プロデューサーを務める石川勝氏に改めて尋ねると、答えが二つ返ってきた。
一つは「万博は儲かるという意識を捨てる」こと。もう一つは「時代に合わせてアップデートする。『熱狂』ではない」こと。どういう意味か。(共同通信=伊藤怜奈) 【音声解説】大阪万博、本当に開催できる?関係者や専門家が嘆く、迷走の背景 ▽「世界を一望してみたい」という欲望 京都大の佐野真由子教授は、高度に情報化が進んだ今の時代こそ「世界を眺め直す」という意義が万博にはあると話す。その上で、経済的利点ばかりをアピールする大阪万博のありように苦言を呈する。 ―万博とは、そもそもどんなきっかけで生まれたのでしょうか。 万博の歴史が始まったのは19世紀半ばです。交通や通信の発達により、人々は世界全体に対する想像力を働かせられるようになりました。黒船を率いた米国海軍ペリー提督が日本の浦賀を訪れ、開国を要求したのが1853年。それまで地球の裏側は訪れるのが難しい場所だったため、交通手段の発達は世界情勢を大きく変えました。一方、一般市民にとって異国はまだまだ遠い存在。そのあわいに生まれたのが万博です。いわば「世界を把握する方法」でした。