これは、本当に生物だったのか…あまりに小さすぎる「火星の芋虫」が起こした「地球外生命への期待」
1976年の6月19日、ヴァイキング1号が火星の周回機動に入ったことから、火星と生命の痕跡探しについての解説をお届けしています。 【画像】はじまりはNASAのヴァイキング計画…70年代の実験がこちら 火星地表に着陸したヴァイキング1号のランダーによって、火星研究の進展に寄与しました。しかし、残念ながら、火星土壌を使った3つの実験で生命が存在する証拠を発見することはできず、生命の材料となる有機物も検出されませんでした。 人々の火星に対する関心も薄れてしまいましたが、なんと1996年に火星から飛来した隕石中に、生命の痕跡を発見したというニュースが発表されたのです。 前半に続き、火星の生命探索の動きを追ってみましょう。 *本記事は、『生命と非生命のあいだ 地球で「奇跡」は起きたのか』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
火星探査のみならず、地球外生命研究にも影響
1976年のヴァイキング1号、2号が採取した火星土壌から生命が存在する証拠となるものが発見されなかったことから、火星探査も下火になっていましたが、1996年8月7日、その後の火星探査のみならず、地球外生命研究の方向をも一変させる発表が、NASAのダニエル・ゴールディン長官によって行われました。日本でも多くの新聞やテレビがトップニュースとして報じましたので、ご記憶の方もいらっしゃると思います。 それは米国の研究チームが「ALH84001」とよばれる隕石中に、生命の痕跡を発見した、というものでした。1984年に南極のアランヒルズで発見されたその隕石は、内部に閉じこめられていたガスの分析から、火星から飛来したものであることがわかっていました。その中に生命の痕跡があったということは、火星に生命が存在していたということになります。
火星の「芋虫」から始まったアストロバイオロジー
この火星隕石を観察したのは、デイヴィッド・マッケイ(1936~2013)らの研究チームでした。彼らが電子顕微鏡で見つけたのは、微生物の化石と思われる芋虫状の構造(図「火星隕石ALH84001中の微生物状の構造物」)と、ヴァイキング計画では見つからなかった有機物(多環芳香族炭化水素)などでした。それらを総合して、「生命の痕跡」と判断したのです。 この発表に対しては、支持する意見や、生命の痕跡とはいえないと反対する意見など、数多くの議論がありました。代表的な反対意見は、微化石のサイズが1m もなく、地球の微生物に比べて小さすぎる、というものでした。 しかしのちに、地球にもそのような微小なバクテリア(ナノバクテリア)が見つかり、生物なのか非生物なのかが論争になりました。したがってサイズだけで火星生命の痕跡ではないと否定するのは難しそうです。なお、その後の2022年には、理化学研究所の加藤真悟らが古細菌(アーキア)の中に微小なもの(ナノアーキア)を発見し、培養することに成功しています。
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