検察官の定年延長問題 忘れてはいけない3つのキーワード
●議会のコントロールを「無視」
今回のニュース報道で、三権分立という言葉をよく耳にするようになりました。あらためて説明すると、三権とは立法(国会)・行政(内閣)・裁判所(司法)のことです。日本は議院内閣制を採っており、大統領制の下でのアメリカほど明確に分立はしていないとの見方もありますが、日本国憲法においても「独立した(三権の)機関が相互に抑制し合い、バランスを保つことにより、権力の濫用を防ぎ、国民の権利と自由を保障する『三権分立』の原則を定めています」と衆議院サイトは説明しています。 三権のうち国会は、憲法で「国権の最高機関であって、国の唯一の立法機関」と規定されています。中野教授は、検察庁法改正案をめぐる今回の国会審議には、政府与党の国会審議を軽視するかのような姿勢が見られたといいます。 「新型コロナウイルス対応で緊急事態宣言が発令された状態の中、ろくに国会審議もせずに強行しようとし、しかもわざわざ『一括法案』という形で法案を提出した」 今回は検察庁法改正案にスポットライトが当たりましたが、法案自体は、国家公務員法改正案など複数の法案を1つに束ねた「束ね法案」と呼ばれるもので、10の異なる法律を一括改正した安保法制の審議の際にも同様の手法が採られました。 中野教授は言います。「一括法案にすることで、法務委員会ではなく内閣委員会に審議の場をずらし、『議会のコントロール』を無視するような形で強行しようとした。国家公務員一般の定年を引き上げることが主眼であるかのように見せ、検察もその一部だからと論理をすり替えようとしている」。実際、「国家公務員法改正案」という一括法案として国会提出された今回の法案についても、野党側は国家公務員や検察官の純粋な定年引き上げ自体には賛成していました。
●選挙で選ばれた内閣がコントロールすべきか
検察幹部の人事に内閣による関与の余地を残す今回の検察庁法改正案をめぐっては、選挙で選ばれた国会議員らがコントロールすることは妥当との考え方があります。 大阪府知事で日本維新の会の副代表を務める吉村洋文氏も、以下のような見解を示したことが報じられています。「強大な国家権力を持つ人事権をだれが持つべきなのかを本質的に考えなければいけない。僕は選挙で選ばれた代表である国会議員で構成される政府が最終的な人事権を持つのが、むしろ健全だと思う」 また、大阪維新の会の創設者で大阪府知事と大阪市長を務めた橋下徹氏も「(内閣の)解釈が間違いならば国民が選挙で落とせばいい」との趣旨の発言をしたことが伝えられています。 こうした見方に対して、中野教授は「もともと民主主義と法の支配の原則は緊張関係にある」と異議を唱えます。「民主的に選ばれている政権であったり国会であったりしても、法で決められていることを変えようとすれば、法を新たに通さなければならないという緊張関係にある」 「法の支配」とは、専制的な国家権力による支配(人の支配)ではなく、法が権力を拘束するという考え方です。 松尾邦弘元検事総長ら検察OBが出した改正案に反対する意見書でも、安倍政権が法改正ではなく、法解釈の変更によって黒川検事長の定年延長を決めたことに対し、フランス絶対王政時代のルイ14世の「朕は国家なり」との言葉をほうふつさせると論難したほか、イギリスの思想家ジョン・ロックの「統治二論」に記されている「法が終わるところ、暴政が始まる」を引用して警鐘を鳴らしています。 中野教授はこれらの言葉を踏まえ、「民主的な政府であっても、過ちを犯すことがあり得るという前提の中で『法の支配』がある。そうでなければ『法の支配』ではなく、勝ったら何をやってもいいという『人の支配』になる」と説明します。 さらに「民主的に選ばれたんだから何をやってもいい。駄目だったら選挙で変えればいい」という考え方は、選挙によって独裁政権が生まれたナチスの歴史を挙げ、「非常に危険」だと述べました。