理性を失った非常戒厳、国民に対する反逆だ【社説】=韓国
尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領が、3日夜に非常戒厳を宣言してからわずか6時間後に解除することを明らかにした。尹大統領は、龍山(ヨンサン)の大統領室で発表した緊急談話を通じて「共に民主党の立法独裁は、大韓民国の憲政秩序を踏みにじり内乱をたくらむ自明な反国家行為」だとしたうえで、「破廉恥な従北反国家勢力を一挙に清算し、自由憲政秩序を守るため、非常戒厳を宣言する」と主張した。これを受け、空挺部隊が国会に進入し、市民と対立する一触即発の状況が生じた。 国会は翌4日1時に在籍議員の過半数の賛成で戒厳解除決議案を議決し、尹大統領は午前4時30分頃、戒厳を解除すると発表した。国会議決が出ると、軍が大統領に従わず国会の決定を尊重したことが、大統領の戒厳の翻意に影響を及ぼしたとみられる。国会の迅速な戒厳解除要求と軍・警察の理性的な判断が、平和裏に事態を収束させたわけだ。危うく流血の事態に発展するところだった大統領の独裁的発想が合法的に制御されたという点で、非常に幸いだ。民主主義がそれだけ堅実に根を下ろしたことを示しているようだ。 しかし、尹大統領の戒厳宣言はきわめて非常識な行動であり、厳しく責任を問わなければならない。1979年と80年に新軍部勢力が「反国家勢力の内乱画策」を理由に非常戒厳を宣言してから45年が過ぎた。ところが21世紀に同じ理由で、それも軍部ではなく国民の手で選ばれた大統領が非常戒厳を宣言するなど、あきれざるをえない。1987年の民主化以降、大韓民国は様々な峠を越して政治的に民主主義が根を下ろし、経済・社会的に先進国の入り口に入ったと自負してきた。国民の自尊心を粉砕した尹大統領の時代錯誤的な行動は、それに相応した処罰を受けなければならない。尹大統領は、国家元首として備えなければならない最小限の判断力と理性を喪失したとみざるをえない。 尹大統領が提示した非常戒厳の理由は、憲法が規定した戒厳理由にはまったく該当しない。韓国憲法は「大統領は戦時・事変、またはこれに準じる国家非常事態に限り、軍事上の必要に応じたり、公共の安寧秩序を維持する必要がある場合、戒厳を宣言できる」と規定している。今が戦時や事変、またはこれに準じる非常事態なのか。国会の状況のために公共の安寧秩序が深刻に損なわれ、軍事力を動員しなくてはこれを回復できないと考える人など誰がいるのか。2017年に数百万人の市民が広場に出てきたときも、戒厳令の必要性を考えた人はごく少数の政権の中核人物以外にはいなかった。ところが、2024年12月に尹大統領は、大韓民国の公共安寧秩序が崩れ体制が崩壊すると言う。単に大統領とその周辺の数人の側近の深刻な錯覚と恐怖心の表れ以外には解釈するのが難しい。尹大統領は、国にとっても本人にとっても、取り返しのつかない最悪の選択をしてしまった。 尹大統領は、国会で野党が22件の政府官僚の弾劾訴追を発議し、いまや監査院長とソウル地検長の弾劾を推進しているとして、これを戒厳宣言の理由とした。しかし、監査院長とソウル地検長の弾劾の出発点が一体どこなのか、大統領は知らないとでもいうのか。自明な誤りがある閣僚に責任を問わず、自身と夫人を守るために国会の特検法案を拒否した自分の誤りには目を向けない。尹大統領が在任2年半の間に拒否権を行使した回数は、1987年の民主化後の歴代大統領の拒否権行使の回数をすべて合わせたものより多い。三権分立と憲法精神を無視して国家分裂を図ったのは、尹大統領自身だ。 緊急談話文を出すまでに誰と相談したのかわからないが、その内容は粗雑なことこの上ない。予備費と特殊活動費の減額削減について「大韓民国を麻薬天国の民生治安の恐慌事態にする」と主張した。野党の弾劾訴追と減額予算については「自明な反国家行為」だと主張した。弾劾訴追と予算案処理は国会固有の権限だ。基本的に民主主義についての理解がないが、このような理由で非常戒厳を持ち出すとは、尹大統領はいったいどの時代に住んでいるのか疑問を感じる。むしろ自明な反国家行為は、尹大統領が犯したわけだ。 それでも、「共に民主党」など野党だけでなく、与党「国民の力」の一部の国会議員まで結集して戒厳令の即時解除を要求したことは時宜適切だった。物理力を持つ軍と警察が大統領の指示に従わず、国会決議を重視した点も、評価に値する。尹大統領はもはや大統領の資格を喪失した。国会は国民と国家を裏切った尹大統領には、相応の責任を問わなければならない。ただちに今日から政府官僚と軍、警察は、国会決議に従うことが憲法を遵守する道であることを念頭に置き、大統領室のいかなる不当な指示も拒否しなければならない。いまこそ、大韓民国の主人はただ国民だという事実を、全員が胸に刻まなければならないときだ。 (お問い合わせ japan@hani.co.kr )