それはSOSのサイン! トラウマを抱えた子どもが「困った子」になる本当の理由
子どもが自らの「トラウマ体験」を開示することは少ない
心に傷を残すような「トラウマ体験」を、子どもが自分からだれかに話すことは決して多くありません。子どもはなぜ、自分の体験や置かれている状況を開示しようとしないのでしょうか? それには下記のようないくつかの理由があります。 ・だれに、なにを、どう伝えればよいかわからない。 ・なにがあったのか、はっきり思い出せない。 ・日常的にくり返されていて、それが「間違ったこと」であると知らない。 ・話してもなにも解決しない、むしろ、もっと悪い状態になると思っている。 ・知られたら恥ずかしいことだという意識が強い。 ・ほかの人や、家族、加害者に「黙っていたほうがよい」と脅迫されたり、指示されたりする。自分自身も、そう思っている。 ・ほかの人が「そのこと」を知ったときの反応をおそれる。 ・自分が責められるのではないかというおそれや、罪悪感がある。 ・「罰」をおそれる。問題が表に出ることをおそれる。 ・過去にだれかに話をしたとき、心配していたとおりマイナスの結果になった。 ・災害や大きな事故などの場合、自分だけが生き延びたことに罪悪感をもっている。
問題行動は、子どもの精いっぱいの「助けて」というサイン
トラウマを負った人は、自分なりのやり方でトラウマに対処しながら生きています。攻撃的になったり、その場から逃れたりするのは、環境への対処としてわかりやすい例です。 でも、リストカットをくり返したり、ゲームにのめり込んだりするのはどうしてでしょう? 彼らの行動を理解するうえで役立つのが、依存症における「自己治療仮説」という考え方です。依存症は、なんらかの苦痛や生きづらさから逃れるために自分で自分にできることをする、つまり自己治療として始まり、続くものだという仮説です。どんな問題行動も、「気をひきたい」「面白い」「気持ちがよい」というだけでくり返されるわけではなく、その子なりの、トラウマに対する精いっぱいの対処行動なのです。 だからこそ、「ダメ、絶対」でその行動は止まりません。彼らに必要なのは「助けて」と言えるようになることです。そのためには、人に頼って自分を落ち着かせてもらうという体験の積み重ねや、それを可能にする環境が必要です。 どれも簡単にはいかず、一人で支援に取り組むのはむずかしいことかもしれません。しかし「力になりたい」と伝えること、そして、だれかにつないでいくことはだれでもできます。「だれも助けてくれない」とあきらめている子どもが、「『助けて』と言っていいんだ」と思えるようになれば、大きな変化が生まれるでしょう。 〈子どものトラウマは蓄積される。虐待された子どもが長く抱えるトラウマの記憶とは〉へ続く
白川 美也子(精神科医・臨床心理士)