ポジティブな言葉では不安が消せないのはなぜ?『スマホ脳』の著者が教える、脳と不安の深い関係
厚生労働省の発表では令和4年の自殺死亡率は17.5%で、前年に比べて男女ともに増加していました。快適な暮らしができるようになった現代ですが、精神的な不調で苦しむ人は多いです。そこで、100万部突破した『スマホ脳』シリーズの著者であり、精神科医のアンデシュ・ハンセン氏による「心の取説(トリセツ)」をご紹介します。人が感じる不快な感情の一つが「強い不安」。そもそもなぜ人間は「不安」を感じるのでしょうか――。 【書影】〈心の取説(トリセツ)〉になる『メンタル脳』 * * * * * * * ◆ストレスとは何か 心配、強い不安、パニックといったつらい感情を理解するために、まずは人間の「ストレスシステム」がどのように働くかを見てみましょう。 ストレスというのは身体や心への負荷に対する反応で、「感情」というよりは「身体の中のプロセス」です(その2つにどこで線を引くかは非常に難しいところですが)。例えばジョギングをすると身体はストレスを感じますし、学校でテストを受ける時もそうです。血液を筋肉に送るために心拍数が上がり、集中し、その時に必要のない身体のシステムはスリープモードに入ります。 これが「闘争か逃走か」と呼ばれる状態で、命を失わないように闘うか、あるいは逃げ出すために身体が態勢を整えるのです。 適度なストレスは良い刺激になり、短期間感じるのは悪いことではありません。何かやらないといけない時に身が引きしまるし、慎重にもなれます。 しかし長く続くストレスや強過ぎるストレスは、特に感情面で問題を引き起こしてしまいます。
◆不安とは「事前のストレス」 「心配」が何かはよく知っていると思いますが、「不安」とはそもそもどんなものでしょうか。根本的には心配と同じ感情ですが、不安の方がもっと強く、長く続きます。 不安は「事前のストレス」という表現が的確でしょう。先生に怒られた人はストレスを感じ、「闘争か逃走か」の状態になります。一方で、「明日、先生に怒られたらどうしよう……」と考えるのが「不安」です。 身体の中で起きている反応は同じですが、ストレスが現実の「危険」によって引き起こされる一方で、不安は「危険かもしれない」と考えた時に──実際には危険でなくても──わき起こります。 強い不安というのは、「何かがひどくおかしい」という非常に不快な感情です。原因はわからなくても、とにかく身体全体でそう感じるのです。「自分をやめてしまいたいくらい嫌な気持ちだ」と表現する人もいました。 不安は様々な形で現れます。不安がしつこくうずいて心が安らぐことのない人もいれば、急に激しい不安に襲われる人もいます。 クラス全員の前で発表するなど、何かをする前に不安を感じる人もいれば、乗っている飛行機が落ちる、戦争が起きるなど、恐ろしいシナリオが頭に浮かんでしまう人もいます。