ポジティブな言葉では不安が消せないのはなぜ?『スマホ脳』の著者が教える、脳と不安の深い関係
◆脳からの警告 人それぞれに違った不安があり、誰でも時々不安を感じるものの、その強さや頻度が違います。とはいえ、不安も空腹や疲労と同じように人間にとって自然な感情です。 「不安にならないで、楽しいことを考えなさい」とか「ポジティブに!」とか言ってくる人もいます。ですが、そんな空っぽの甘い言葉では不安は消せません。それで消えるような不安だったら、脳が私たちを行動に出させるほどの効果はなかったことになりますし、私たちもこのように進化してこなかったでしょう。 どんな不安も、もともとは脳が「何かがおかしい」と私たちに知らせるための手段です。不安を感じることでストレスシステムを起動し、不安の原因が漠然としていたり、ありえないようなものだったとしても脳は全力を尽くします。 なぜなら脳の扁桃体という部位が「何かがおかしい!」と警告を発するのが好きだからです。
◆見えている世界には「時差」がある 視覚的なシグナルが目に入ってから、脳の後ろの方にある視覚野という部位に届くまでコンマ何秒かかかり、そこでやっと自分が見ている物を認識します。他の知覚から入るシグナルも同じで、今この瞬間に体験している世界というのは、実際にはほんの少し前の世界なのです。 脳はその時差を埋め合わせることにも慣れていますから、私たちはそのわずかな遅れには気づきもしません。何もかも、たった今起きているように感じられるのです。 しかしこの時差が生と死を分けることもあります。考え事をしながらうっかり道路に足を踏み出した瞬間、トラックが猛スピードで走ってきたとしましょう。すると私たちは足を引っ込めて、あわてて後ろへ下がります。まるで見えない手に首根っこを掴まれたかのようにです。 その後でやっとトラックが目に入り、そこで初めて「恐怖」を感じ、それから「安心」がわいてきます。「今のはやばかった──!」 視覚野まで情報が届いていないのに、なぜ危険だとわかったのでしょうか。 それは視覚シグナルが視覚野まで届く途中に「扁桃体」を通り過ぎるからです。扁桃体は小さなアーモンドのような形で側頭葉の奥深くにあり、危険はないかどうか常に周囲を見張っています。 扁桃体の仕事には、あらゆる知覚刺激が脳の各部位に届く前にチェックをすることも含まれています。刺激の内容が深刻であれば、扁桃体はすぐに行動を起こします。 トラックという視覚シグナルが通った瞬間に警報ボタンを押し、私たちを後ろへ下がらせるのです。その後やっとシグナルが視覚野に届き、映像をつくり出します。 こういった場合、感情が伝わってから行動を起こしていては間に合いません。行動が先にくるのです。