湘南ベルマーレは石原広教の良さを消していた。浦和レッズDFを「分かっているからこそ…」「練習では何百回と」【コラム】
明治安田J1リーグ第22節、浦和レッズ対湘南ベルマーレが浦和駒場スタジアムで行われ、2-3で湘南が逆転勝利を収めた。今季から浦和でプレーする石原広教にとっては、小学生のときから過ごす湘南と対戦する初めての試合に。石原がプレーする浦和の右サイドでの攻防は白熱していた。(取材・文:加藤健一) 【2024明治安田Jリーグ スケジュール表】TV放送、ネット配信予定・視聴方法・日程・結果 J1/J2/J3
●実現した古巣との対戦「考えることがかなりあった」 味方のために走り続け、大柄な相手にも身体をぶつけるガッツは今も変わらない。そのプレースタイルが浦和レッズサポーターに認知されるまで、さほど時間はかからなかった。ただ、湘南ベルマーレサポーターから見ると、黄緑の3番だった石原広教が赤の4番を着ていることに違和感を抱いたかもしれない。 「やっぱり考えることが、今日一日はかなりあった。いつもと違う入り方になったのは正直ありました」 石原は試合後、率直な思いを明かした。小学3年生のときから袖を通してきた黄緑のユニフォームと対戦するのはこれが初めて。湘南とは3月17日の第4節でも対戦しているが、このとき石原はベンチ外だった。 石原は[4-2-3-1]の右サイドバックに入り、[3-5-2]で構える湘南の左サイドとマッチアップした。開始早々の3分には山田直輝に激しくボールを寄せてボールを奪い、6分にも再び両者のマッチアップが繰り広げられた。石原は「目の色を変えてきているな」と感じていたという。 「僕と(畑)大雅は広教と長くやっているし、絶対にそこでやらせない気持ちがあった。お互いに確認していたわけじゃないですけど、やっぱりそこでは絶対に負けたくない」 そう話す山田が湘南に来たのは2015年のこと。このとき石原は高校2年生で湘南ベルマーレU-18に所属していた。翌年6月に2種登録された石原は、このシーズンにトップチームデビューを果たしている。19シーズンは石原がアビスパ福岡に期限付き移籍、山田も18シーズンから1年半は浦和でプレーしたが、20シーズンからは再び同じユニフォームに袖を通している。両者は多くの時間を馬入ふれあいサッカー公園で、そしてレモンガススタジアム平塚で共有してきた。 ●「燃えないはずがないシチュエーション」 「同じチームで長くやってきた選手ですし、彼の良さを分かっていたからこそ、彼の良さを逆にこっちがガツガツいって消そうと思っていた。広教もそうだし、僕と大雅も燃えないはずがないシチュエーションだった」 山田は石原との対戦を「楽しかった」と振り返る。山田の言葉通り、石原の特徴を熟知しているからこそ、山田を含めた湘南の左サイドは明確な狙いを持っていたようにも見える。32分の先制点は石原のいたエリアを崩した形になった。 池田昌生の縦パスを、混戦の中で山田が左へ流す。ここに走り込んできたのはアンカーの田中聡だった。背後を取られる形となった石原はボールに寄せることができず、田中が振り抜いた左足のシュートは、ゴールネットを揺らしている。 「攻撃でも守備でもガツガツいったし、今日は相手の右サイドより、僕らの左サイドが上回ったんじゃないかな」 山田がこう振り返るように、湘南の左サイドが圧力をかけていた時間は長かった。前半は浦和もコンパクトさを保っていたが、山田や畑の出足の速いプレスは浦和の自由を奪っていた。時計の針が進み、一時は浦和が逆転に成功したが、間延びした試合終盤はそれが致命傷となってしまった。 85分、湘南は左センターバックの鈴木淳之介を下げて、FWの根本凌をピッチに送り込んだ。根本はルキアンとともに最前線に並び、その背後には左から石井久継、福田翔生、奥野耕平が並ぶ。最終ラインを4人にして、リスクをかけてゴールに迫ろうとした。 「相手のサイドハーフを僕が引っ張って下げられたので、特に後半はだいぶやりやすくなった」 そう振り返ったのは左ウイングバックから左サイドバックにポジションを移した畑だった。この試合のハイライトとも言える湘南の同点ゴールは畑を起点に生まれている。 ●「陰のアシスト」浦和レッズを苦しめた動き 畑も山田と同じように、長い時間を石原と共有してきた。石原が期限付き移籍から復帰した2020シーズンに市立船橋から加入して以来4年間、練習でマッチアップする相手として、ポジションを争うライバルとして切磋琢磨してきた。 ボールを持った畑に石原が対応したことで、右センターバックの佐藤瑶大が釣り出された。畑からライン間でパスを受けた福田はワンタッチですぐ後ろにいた石井へ渡す。石井はワンタッチで誰も止められないところにボールを置き、3タッチ目で強烈な左足のシュートをファーサイドに突き刺した。 「サイドハーフはだいぶ僕を気にしてくれていたので、中は通しやすかったですね」と言う畑に「陰のアシストだった」と言うと、「そう言ってもらえると嬉しい」と屈託のない笑顔を見せた。 畑は「練習では何百回とやってきましたけど、公式戦でやれて楽しかった。(石原は自分の)よくない時期を知っている」と言えば、3歳上の石原も「(畑も自分も)1年目に比べたら成長しているんで」と振り返った。 3人は真剣勝負を楽しんでいた。この試合では結果でも、内容でも湘南サイドに軍配が上がったが、石原もこのまま黙っているはずがない。おそらく来シーズンになる次の対戦では、もっと激しいバチバチの90分を見せてくれるはずだ。 (取材・文:加藤健一)
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