写真家・作家の顔も持つ、映画プロデューサー・石井朋彦の仕事術【HOW I WORK】
年に一度は読み直す『モモ』。現代人こそ読むべき傑作
──ご自身の人生に影響を与えた本はなんでしょう? ミヒャエル・エンデの『モモ』です。幼少期にドイツで育ち、母がファンタジー小説が好きだったので、家中にエンデの作品がありました。その中でも『モモ』は、小学生のころから、年に1回は必ず読み直している本です。 「時間どろぼう」に大切な時間を奪われていくことに、唯一気づいた女の子の話です。自分も、モモのように生きていきたいと考えてきました。 今の世界は、社会のあちこちに「時間どろぼう」がいます。「時間どろぼう」に、自分の時間を奪われずに生きていくことが理想です。現代人こそ読むべき傑作だと思います。 ──『モモ』は名作ですね。ほかにもありますか? 写真家・藤原慎也さんの『東京漂流』も繰り返し読む一冊ですね。『インド放浪』で知られる藤原さんですが、『東京漂流』は、戦後の資本主義・消費文明を痛切に批評したノンフィクション。「世の中が熱狂していることを疑うこと」を教えてくれた本ですね。 開高健さんの作品にも大きな影響を受けました。いずれの作品も文体が美しい。読んでいるだけで、目の前に映像が浮かびます。 プロデューサーの仕事は、言葉と会話で相手の脳内にまだ見ぬ企画の姿を作り出すことが仕事です。これからも開口さんの語り口や文体から、多くを学ぼうと思っています。
プライドや承認欲求を捨てて仕事をする
──自分なりの仕事の流儀とか哲学はありますか? 人に必要とされる仕事をし、肩書きを相手に決めてもらうことですね。 自分はこういう仕事をしたいです、といった自己主張はしません。 相手が自分に対して求めてくることの中で、自分のやりたいことを見つけたほうが、結果として望んでいたことができるからです。 プライドや承認欲求を捨てて仕事をすること。それが、人生を豊かにする唯一の方法だと考えています。
40代後半。自分の好きなことだけで生きていく
──最後に、今後の展望について教えてください。 40代後半という年代は、人生においても、仕事においても分岐点となる時期です。サラリーマンであれば「現場を離れて管理職になりなさい」といった、現場を離れるか管理職になるかといった岐路に立たされますよね。かといって、いつまでも現場に張り付いている老害にもなるべきではありません。 残りの人生を後悔せずに生きるために、40代に入ってからは、プロデューサーとは別に、写真を撮ったり、文章を書いたりと、自分の中に眠っている衝動に忠実に、いくつもの顔を持つように心がけてきました。どれかが行き詰まってももうひとつがある。 そう思える人生のほうが、きっとこれからの時間を豊かにしてくれると思うのです。 やってみたかったことをやらないまま、生涯を終えることだけはしたくない。そう考えながら、多くの方々に助けていただきながら、自分に過剰な期待をすることなく、生きていきたいと思います。 How I Workをもっと読む>> Source: YouTube,Image: 本人提供
鈴木拓也