【毎日書評】いまここにある不安や視点を変える天才プロデューサー「世阿弥」のことば
世阿弥は、「初心忘るべからず」という格言を生み出したことでも有名な室町時代の能役者。しかし、その経歴について詳細に語れる人は、決して多くないかもしれません。そこで、まずは『超訳 世阿弥』(森澤勇司編訳、ディスカヴァー・トゥエンティワン)の編訳者による解説を確認してみましょう。 その活躍した時代は室町時代、西暦でいえば1300年代後半です。現代まで600年間演じ続けられる能楽の基盤を作った能役者であり天才プロデューサーです。世阿弥の演劇論と数多くの能楽作品が現代まで伝承されています。 ちょうど現代の人気YouTuberが古文書に独自の解釈や仮説を語るように、知的好奇心を刺激するメディアとして能は世阿弥によって大成されていきました。(「はじめに」より) 世阿弥のことばには、見聞心(視覚、聴覚、体感覚)など、NLP(Neuro Linguistic Programming=神経言語プログラミングの略称)を筆頭とする海外の最新心理学とも共通する部分が多いのだと編訳者は指摘しています。 原文が日本にあり、実際にその哲学を土台として600年間途切れることなく上演されている能楽は、世界最古の生きた文化だとも。 600年後の私たちに残してくれた世阿弥の哲学や世界観を知ることは、バーチャルとリアルが交錯する現代人の大きな生きる力になると考えます。 とくに人の心に関することはタイムトラベルで現代を見てから記載したのではないかと思われるほど、現代の自己啓発書に通じるところがあります。これが秘伝として伝承されてきたこと、それが公開されているにもかかわらず古語であるために敬遠されているのは非常にもったいない状況だと思っています。(「はじめに」より) そこで本書では、「超訳」というスタイルを利用しながら、世阿弥のことばを現代に蘇らせているわけです。きょうはVIII「成功」のなかから、いくつかを抜き出してみたいと思います。