ファーウェイ事件に見えてくる「物量のハイテク戦争」と日本の立ち位置
中国のハイテク企業ファーウェイの製品を締め出す動きが広がっています。アメリカのトランプ政権が、同社の通信機器を通じて情報が盗まれる可能性があるとして、関係国への働きかけを強めていることが背景にあるようです。オーストラリアがまずこれに追随し、報道によると、日本も事実上政府調達から排除する方針を決めたとされています。 キングの逮捕劇──カルロス・ゴーンと田中角栄の文化論 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、アメリカと中国の対立が激しさを増す中、「かつて技術開発のトップランナーだったはずの日本だけが置いていかれている気がする」と語ります。それでは、日本が世界の中で存在感を示していくためにはどうすればよいのでしょうか。若山氏が独自の「文化力学」的な視点から論じます。
「クイーンの逮捕劇」と5G
カルロス・ゴーン日産自動車前会長の逮捕を田中角栄元総理に重ねて「キングの逮捕劇」と書いたが、今度は「クイーンの逮捕劇」であった。 中国のハイテク企業ファーウェイのCFOが、アメリカの要請によってカナダで逮捕された事件は、まさに、アメリカと中国の経済・サイバー戦争が本格的な段階に入ったことを感じさせた。少し前に「自爆テロ、サイバー戦争、経済制裁」を「三つの新戦争」と書いたばかりでもある。 表向きにはイラン制裁違反とされるが、本筋はスパイウェア、スパイチップなどによる国家機密漏洩の問題か、5Gと呼ばれる次世代移動体通信のスタンダード(標準)の覇権問題か、報道によってウエートが異なる。しかしこの状況に何か、日本だけが置いていかれているような気がしたのは僕だけではないだろう。 ここではこの事件が示す国際状況から浮かび上がってくる、日本という国の情報技術開発競争における歴史的位置について考えたい。つい先日まで、この国は世界の技術開発のトップランナーであったはずなのだ。この急速な「置いていかれ感」はいったい何なのか。
日本とITの関係のこれまで
コンピューターもメインフレーム(大型コンピューター)の頃は、先駆的王者IBMに、日立、東芝、富士通などの日本企業が激しく挑戦していた。僕は大学院時代、そういう大きなコンピューターの夜のオペレーターで学費を稼いだのだが、日本の技術陣がいずれはIBMの玉座に迫ると考えていた。パソコンが出始めても、初期の頃はNECの98シリーズがその代名詞で、助教授時代は研究室に一つあるかないかであった。まだ日本の技術を信頼していた。 しかしマッキントッシュとウィンドウズが現れてから様子が変わってきた。コンピューターは計算機というより「個人の相棒」のようなものとなった。つまり性能そのものより人間との相性が問題となる。日本の電機メーカーは、機械とオペレーション・システムがセットになったマッキントッシュのデザインに勝てる相棒をつくることはできず、すべてのメーカーは、その機械にウィンドウズというOS(オペレーティング・システム)を積んで動かさざるをえなかった。しかもその中心部分はインテルという米国企業の部品が不可欠、つまり日本企業は、アップルのデザインとマイクロソフトの普遍性とインテルの性能に打ちのめされたのだ。 そして突然のごとく登場したインターネット。これは技術というより一つの社会システムであり、多くの新企業が誕生したが、今では、GAFAと呼ばれるグーグル、アップル、フェイスブック、アマゾンというアメリカ企業が世界中のユーザーを網羅して膨大な個人情報を収集し、通信と販売の戦略を拡大している。 「やはりこの分野はアメリカか」。「ものづくり」にこだわった日本企業には諦めムードが広がった。その隙をついたように韓国のサムスンがテレビパネルと携帯電話で、日本の電機メーカーを追い落として世界トップのシェアをつかみ、台湾のメーカーも格安製品の販売を拡大した。得意だったはずのものづくりさえも危うくなってきたのである。 そして今回のファーウェイ事件だ。