ファーウェイ事件に見えてくる「物量のハイテク戦争」と日本の立ち位置
人類の科学技術の大きな流れ
こう考えてくると、人類の科学技術の発達の大きな流れが見えるような気がする。 5000年以上前、古代地中海周辺のメソポタミアとエジプトに文字が現れたのを起源とし、古代ギリシャで自然科学の花が開いた。その花はローマよりむしろイスラム世界に伝えられる。数学を含む自然科学の発展にはインド、ペルシャ、アラビアの影響が濃く、それが中世の修道院などでラテン語(西欧の知的共通語)に翻訳され、ガリレイやニュートンの業績につながるのだ。つまり歴史を俯瞰すれば、西欧だけが科学的発見のオリジナリティを主張できるというわけではない。 二つの世界大戦を通じて、科学の天才たちがヨーロッパからアメリカに移り、あるいはその対極としてのソビエトに集まって、冷戦期の技術開発競争が始まる。その大国間の、軍事を主とする大規模技術開発競争のあいだに、日本のような国が、民生用の小型で精巧なものづくり技術の勝者となり、その技術は韓国や中国などアジア諸国に移転される。 そして工業社会から情報社会への転換において、再びアメリカが覇権を握る。もともと多言語の人間で構成された文化で、コンピューター・プログラムという共通言語に鋭敏なのだ。今度はその情報技術を中国が吸収してアメリカに挑戦し、さらに新興のインドが追い、ロシアと東欧が追う。 つまり人類の科学技術の発展が世界を一周してきたのである。グローバル社会とは、そのシフトが速いことを意味する。 だからこそアメリカと中国がぶつかるのだ。そのスタンダード(標準)を取るために激しく衝突せざるをえない。アメリカは古代地中海以来の科学技術文明のメイン・ストリームの申し子である。インドも、ロシアもその支流にある。しかし漢字文化圏である中国は異なる流れだ。したがってそのストリームの中心から外れた、東南アジアやアフリカをターゲットとして「一帯一路」政策を取ろうとする。日本は、漢字文化圏でありながら、現在は欧米文化圏に近いところもあり、その微妙な立ち位置の特殊性は認識するべきだろう。