米国はなぜ日本より豊かなのか?コロナワクチン開発の速さを見れば納得するしかない
なかでも重要なのは、それまで進められていた地道な基礎研究だ。その1つがmRNAに関する研究だ。mRNAとは生体内でタンパク質を作るための情報源だ。 厚生労働省のサイトにある説明(注/厚生労働省、新型コロナワクチンQ&A)によると、mRNAワクチンとは、つぎのようなものだ。 これまでのワクチンは、ウイルスのタンパク質の一部を人体に投与し、それに対して免疫が出来る仕組みだった。 一方で、mRNAワクチンは、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質(ウイルスがヒトの細胞へ侵入するために必要なタンパク質)の設計図となるmRNAを、脂質の膜に包んだワクチンだ。 mRNAがヒトの細胞内に取り込まれると、それをもとにして細胞内でスパイクタンパク質が作られ、それに対する中和抗体産生や細胞性免疫応答が誘導されることによって、新型コロナウイルス感染症の予防ができる。 つまり、mRNAを使って細胞に指示を与えることによって、人体そのものが病気を治すために必要な「薬」を造るのだ。細胞内でタンパク質を生産させるには複雑なバイオテクノロジーの手法が必要だが、mRNAワクチンの候補なら、数日で化学的に合成することができる。
● mRNAワクチンの研究者は ノーベル医学賞を受賞 さらに、AI(人工知能)の利用によって、開発が著しくスピードアップした。AIは、ウイルスの遺伝情報を分析し、ワクチンのターゲットとなるウイルスの部分を特定するのに使用された。 2023年のノーベル生理学・医学賞は、カリコー・カタリン(注/カリコーが姓で、カタリンがファーストネーム)とドリュー・ワイスマンによるmRNAワクチンの基礎研究に対して与えられた。 彼らの研究は、mRNAが免疫系によって攻撃されるのを防ぎ、安全で効果的なワクチンの開発を可能にする方法を提供した。この技術は、迅速なワクチン開発と大規模なパンデミックへの対応に大きく貢献した。 カリコーは、1955年のハンガリー生まれ。水道も冷蔵庫もテレビもない小さな家で育った。父親は精肉店経営者で、母親は簿記係だった。カリコーは科学に秀でており、ハンガリーの生物学コンテストで第3位を獲得した。セゲド大学で生物学を学び、1978年に学士号を、1982年に博士号を取得した。 当時のハンガリーは、ソ連の支配下にある共産主義国であり、科学研究の資金や機会が限られていた。