定年シングル女性に家は買える?長女はつらいよ、ローン撃沈でお先真っ暗!真面目に働いても、定年で「無職のシングル女性」に
昨年は、モトザワ自身が、老後の家を買えるのか、体当たりの体験ルポを書きました。その連載がこのほど、『老後の家がありません』(中央公論新社)として発売されました!(パチパチ) 57歳(もう58歳になっちゃいましたが)、フリーランス、夫なし、子なし、低収入、という悪条件でも、マンションが買えるのか? ローンはつきそうだ――という話でしたが、では、ほかの同世代の女性たちはどうしているのでしょう。今まで自分で働いて自分の食い扶持を稼いできた独身女性たちは、定年後の住まいをどう考えているのでしょう。それぞれ個別の事情もあるでしょう。今回からしばらく、「老後の住まい問題」について、1人ずつ聞き取って、ご紹介していきます。 * * * * * * * ◆老後の家がありません!みんなはどうしてる? 会社を定年退職したら、ただの無職のシングル女性になっちゃうのよ。マンションを買うなら会社員のうちよ――。 こんなふうにアドバイスしてくれる先輩女性がいたことが、名和田祥子さん(仮名、57歳、東京都内在住)にとってはラッキーでした。それまで賃貸暮らしだった祥子さんはつい1ヵ月ほど前、老後を暮らすためのマンション探しを始めました。でも、いきなり、ローンの壁にぶつかりました。 「どうしよう~。お先真っ暗~」 短大を卒業して就職してからこの方、35年以上、ずっと給与振り込み口座にしてきた某メガバンクが、いきなり、祥子さんの住宅ローンの事前審査を落としてきたのです。ローンが借りられないなら、マンションなんて買えません。 「ショック~。ずっと使っていた銀行なのに~」
◆私しか、稼ぐ人がいないんだから 祥子さんは、地方の出身です。短大進学で上京し、卒業後は大手企業に一般職として就職しました。時は男女雇用機会均等法の黎明期。祥子さんは均等法1期生でした。広報や営業補佐、企画など、事務方の仕事を続けて来ました。明るく気さくな姉御肌で、仕事も出来ます。どの職場でも後輩の男性社員らに慕われ、中心的な存在になりました。 でも、祥子さんの会社はすっごい男社会です。なかなか昇進させてもらえず、同じ立場の同期は最低でも課長になっている現在もまだ、肩書きは課長補佐のまま。上司によっては、わざわざ申し送り事項に「名和田は要注意。昇進させないように」と書いて、祥子さんの出世を阻んだほどです。自分よりも立場は下だけれど仕事のできる祥子さんが、出来ない上司にとっては目障りだったのでしょう。ある時など、上司に不当に低い評価をされたり、考えた企画と手柄をまるごと横取りされたり。それでも祥子さんは新卒で入った会社に、ずっと尽くしてきました。 そんな会社なら、とっとと見切りを付けて辞めてしまえ、と思いがちなところですが、祥子さんは真面目な性質です。「辞めたくても辞められないのよ。私しか、稼ぐ人がいないんだから」。自分1人なら身軽でしょうが、実は、祥子さんは田舎の実家を背負っていたのです。 祥子さんは4人きょうだいの長女。父母は祥子さんが上京後に離婚しました。実家の母は飲食店を経営し、女手一つで弟たちを育て上げました。あちこちに多額の借金のあった父を、離婚後も死ぬまで経済的に支え、家屋敷を売ってまで億単位の借金を肩代わりしました。妹や、地元にUターン転職した弟にも、なにやかやと母は金を出していました。そんな母に、祥子さんは仕送りをし続けました。毎月とボーナスのたび、お金を送っていました。3年前に母が末期がんだと分かってからは、仕送り額を増やすために、家賃を3万円下げて、狭い部屋に引っ越したほどです。 その母が、2年前に亡くなりました。母の遺品を整理していて、祥子さんは、実家のいろいろな問題に気付きました。すべての記録や書類をきちんと母が残してくれていたためです。