パワハラ問題乗り越え復帰の伊調馨は東京五輪で勝てるのか?
東京五輪へのハードル
復帰について迷ったことを告白していた伊調だが、無意識のうちに、レスリング選手へと戻る予感を強く持っていたのではないか。というのも、試合後の彼女の言葉には「やっぱり」「本当に」という言葉が、いつも以上に繰り返し出てきたからだ。 予想していた通りにことが進んだり、色々考えても同じ結果になるときに「やっぱり」という言葉は使われる。煩わしいことが色々あっても「やっぱりレスリングは楽しい」し、レスリングのビデオを見ると「やっぱり同じ技をやってみたくなる」し、「やっぱりレスリングをやりたい」し、「やっぱり応援してくれる言葉が、いちばん嬉しかった」。久しぶりに試合をした対戦相手の3選手ともに「やっぱり自分に向かってくる気持ちが感じられて負けられないと思った」。すべて意識せずに予想していた通りだったのだろう。 喜びに満ちた言葉を残し続けた伊調だが、2020年東京五輪を目指すことについての質問へは「難しいところですね」と、リップサービスよりも誠実な返答を続けた。 「年齢も年齢ですし、東京五輪を目指すというのは簡単には言えない。五輪とは、生半可な気持ちでは目指せないものですから」 2020年に36歳となる伊調が東京五輪で五連覇を果たすには、今後、どんなハードルを越えねばならないのか。 レスリングの五輪予選は、2019年の世界選手権から始まる。その世界選手権に出場するための一次選考会が、今年12月の全日本選手権だ。伊調は、今大会で優勝したことで出場権を手にしたが、この女子57kg級には、今年の世界選手権代表で昨年の世界チャンピオン、リオ五輪63kg級金メダルの川井梨紗子(23、ジャパンビバレッジ)がいる。このまま伊調が57kg級での戦いを続けるのなら、世界で勝つよりも厳しいと言われる日本の女子レスリングのなかでも、とりわけ難易度が高い代表争いになる。 「川井も世界チャンピオン、伊調も世界チャンピオンなんですよね。もったいないことはもったいないです」と西口茂樹強化本部長が言うとおり、贅沢な代表争いになりそうだ。 日本代表にさえなれば世界ですんなり勝てるのかというと、そうではない。今の女子レスリングは各国で新世代が台頭しており、今までのようにはいかない。女子に力を入れているモンゴルや、ブルガリアで男女の世界チャンピオンを生み出したコーチが中国女子を担当するようになった。そして57kg級には、リオ五輪決勝で吉田沙保里を破ったヘレン・マルーリス(米国)がいる。