朝ドラ『虎に翼』戦後の“社会的弱者”と恵まれた人々の格差【週タイトルの意味を振り返り! 9~12週】
NHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』は第12週まで放送された。物語全体の中盤にきたところで、これまでの約3ヶ月間の週タイトルの意味とストーリーを振り返っていきたい。今回は第5~8週をお届けする。 ■第9週「男は度胸、女は愛嬌?」 読んで字のごとく「男は度胸があるのがよく、女は愛嬌があるのがよい」という意味である。 兄・直道が戦死し、終戦後に優三も病死したことで打ちのめされる猪爪家。さらに、栄養失調がたたって直言までがこの世を去り、稼げる人間がいなくなってしまう。ここで寅子の希望になるのが、日本国憲法第14条第1項「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」だ。 そして寅子は家族の前で「私の幸せは、私の力で稼ぐこと! 自分がずっと学んできた法律の世界で!」と言い切る。これがまさしく“度胸”をみせたところであり、もはや性別によって「男は/女は○○がよい」という時代は終わりだと高らかに宣言するものだった。 ■第10週「女の知恵は鼻の先?」 これは第1週のタイトル「女賢しくて牛売り損なう?」に対応するタイトルだ。「女の知恵は鼻の先」ということわざも、「女は目先のことにとらわれて先のことを見通す思慮が足りない」という意味である。つまりこの週は、時代を経て見せる第1週のアンサーにあたると言える。 民事局民法調査室で働き始めた寅子は、民法改正の最前線に立つ。そこで寅子は新たな民法の草案を読み、「婚姻した女性は夫の家に入って社会的無能力者とされることに疑問を抱き、怒り続けてきた」ことを再確認するのだ。これは、第1週で寅子が法律を学ぶと決める契機となった内容である。同時に、第1週では自分が今やりたいことと将来に関する決意を固めたことをうけて、第10週ではその先で待ち受けていた地獄を歩んだ上で、今度は日本の将来という大きな課題と向き合う寅子が描かれている。 ■第11週「女子と小人は養い難し?」 『論語』に基づく言葉で、「女性と器量の小さい人(徳のない人)は扱いにくい」という意味。注目したいのはこの跡だ。論語では扱いにくい理由として「之(これ)を近づくれば則(すなわ)ち不遜(ふそん)、之を遠ざくれば則ち怨む」と続く。つまり「親しくすれば調子にのるし、距離をとろうとすると恨んでくる」というのである。 これを踏まえてどう思われるだろうか。もしかすると「親切にしてやればつけあがるし、遠ざけると恨まれる」とは、戦争孤児たちに対して大人たちが感じていたことではないだろうか? そして、この週のポイントはやはり「純度の高い正論」だ。家庭裁判所設立を巡る対立や戦争孤児問題、そして多岐川が目指す「愛の裁判所」という理想を通じて、純粋な思いこそが物事を動かしていく様子がみられた。女性だろうと、徳がない人、そりが合わない人、どのような相手だろうと真摯に向き合うことで物事の見方が変わることを、寅子が体感したように思う。 ■第12週「家に女房なきは火のない炉のごとし」 「家に主婦がいないのは、炉の中に火がないのと同じで、大事なものが欠けていて寂しいということ」という意味。 やはり猪爪家を支え続けてきた母・はるの死がこの後猪爪家にもたらす“寂しさ”を想起させる。もちろん花江も主婦ではあるが、ここはやはり猪爪家の誰にとっても大きな存在であり、母として祖母として、そして直言の死後は実質的な一家の長として家族を守り続けたはるの偉大さが如実に表れているだろう。
歴史人編集部