【LiLiCoのこの映画、埋もらさせちゃダメ!】『花束』サヘル・ローズ監督とのスペシャル対談:監督未経験で挑んだ本作に込めた熱い想いとは?
「映画がささやかな問題提起になればいいなと思います」
LiLiCo 撮影はいつ終わったんですか? サヘル・ローズ 2022年の7月頃だったと……。 LiLiCo では、編集に時間を? サヘル・ローズ そうなんです。2年ほど編集していました。それで2年越しに完成品を彼らに届けたときに驚くことがあったんですよ。それまでどんな感情をも一番笑顔で表していた子が涙を流しながら「苦しい話をしてるのに、私はこんなにも笑ってるんだ。その自分を客観的に見れたことがよかった」と。そのときにやっと「これだ! 私が伝えたかったのは! これ」と思えた瞬間だったんです。 LiLiCo そうだったんですね。その点、彼女は俳優だったんですよ。だって、感情を出せたんだから。芸能界の中にもハッピーな女性っていっぱいいるけど、彼女たちも昔の傷を隠しながら、ハッピーを装っていて、それが本当のハッピーにもつながっていく。彼女がそういう風に思ってくれたっていうのは、すごくいいことですよね。 サヘル・ローズ そうだと思います。私はこの映画で施設を否定したいわけではなくて、むしろすごい大事にしたいんですよね。だって、施設のおかげで、彼らの命が救われたわけですから。 今、もしかしたら親から手を挙げられてしまっている子どもには、「あなたはあなたの人生を生きることだよ」っていうことを伝えたいのと同時に、虐待をしてしまう大人にも、子どもたちは何をされてもあなたのことをきっとこういう風に思ってくれてるかもしれない、ということを伝えられたらいい、と思っています。いろんな角度から花束を渡せたらいいな、という想いで、このタイトルを岩井さんがつけてくれました。 LiLiCo 子どもにとって、大人が笑顔でいることが大事ですもんね。それは今の社会に対して伝えたい。 サヘル・ローズ こういう問題を考えるとき、だいたい子どもを重点に置いてくれているんですけど、その一方で大人がどんどん孤立していくんですよ。大人の孤独は子どもに伝わるし、時には子どもにそれが違った形で当たってしまう。この間違った循環を止めないといけないと思っています。 もちろん、映画で全てを変えることはできません。でも映画は問題提起にはなります。日本で置き去りになっている子どもたち、そしてその親や周囲にいる大人に目を向けてほしい。ささやかな問題提起になればいいなと思います。 LiLiCo この島国に1億3000万人も住んでいるのに孤独を感じるっていうのは、物理的に考えてもとっても変なことなのよね。ちょっと歩けば人にぶつかるくらいに過密なはずなのに。 それに「ダメだよ」って否定的に育てられたら悲しい人になるし、「世界一可愛いね」って言われて育ったら「私は可愛い!」って人に育つじゃない。いろんな人がいるけど、それを表現するのは大事なことだと思う。私たちにできることって、伝えること、伝える場があることを知らせることなんだよね。 サヘル・ローズ 私もそう思います。伝えることは、傷のかさぶたを剥がすことになることもあるから、時にしんどいんですよね。 彼らもドキュメンタリーの部分でたくさんしゃべってくれましたが、カットした話もたくさんあるんですよ。私じゃない監督だったら、そのカットした部分にあるすごいインパクトのある話を使ったかもしれませんが、私はインタビューにすごく時間をかけ、考えながらそれをあえてカットしました。 なぜなら、後々「言わなければよかった」って思うことは実はあるんですよ。それは私が当事者として語ったことで、言わなければよかった、と思ったことが何度もあったからね。後悔はいつかする。若いときはいいんです。でも、年を重ねたとき、守りたいものができたときに、やっぱり伏せたい事実もある。それは私が今回は年長者だから、分かること。だから、ある程度さじ加減をして、守りたい気持ちでしたし、ちゃんとキャストである彼らにも確認しました。 LiLiCo 人っていろんな方にお世話になって生きているから、それでいいんだと思いますよ。迷惑をかけたり後悔するのは違うもの。私の経験上、サヘルさんのように気を遣える方は、なんでもホントにちゃんとしてるなと思うし、この作品に出てきた皆さんはちゃんと自分の考えを言語化できていて、自分のため、サヘルさんのために動いたってことが分かりますよ。