【LiLiCoのこの映画、埋もらさせちゃダメ!】『花束』サヘル・ローズ監督とのスペシャル対談:監督未経験で挑んだ本作に込めた熱い想いとは?
「ひとりひとりが輝いている姿をちゃんと本人に見てほしかった」
LiLiCo そう。生きる権利はみんな同じなのに、そう思ってしまうのはなんだろう、って思いますよね。また、全てを悲しい方に持っていく人もいれば、いい方に考える人もいるわけですし。この前、障がいを持っている方と対談したんですけど、本当に彼らは強く生きてるわけ。私、ちょっと膝の骨を折ったぐらいで何言ってんだ、みたいに思うくらい。 この映画で面白いと思ったのは、ドキュメンタリーではなく、あくまでもフィクションっていうところなんですよね。それによって、観る人を選ばない作品にしている気がします。でも、芝居未経験の人たちでしょ? いったいみんな、どういう風にそれを受け止めてたのかしら? サヘル・ローズ 最初は脚本らしい脚本がなかったんですよ。リサーチでキャストの皆さんにお話をうかがったときに、脚本家のシライケイタさんは「彼らの人生を聞けば聞くほど、書いたセリフなど、どんな言葉も偽物になっちゃうから」と。その本物の彼らの言葉を記録するためにカメラを回したんです。その映像は映画本編で使うつもりがなかったんです。記録として、後でキャストの彼らにプレゼントしたいなと思って撮影していたんですよね。 LiLiCo でもあれがあるから説得力が出てる。 サヘル・ローズ そうなんです。インタビューするときにカメラを回して、っていうのは岩井さんの助言だったんです。なぜかっていうと、「映画の中で無駄になるものは一切ないから。サヘルさんがやりたいようにまずはやってごらん」って。その助言があったからカメラを回せたし、シライケイタさんがこれ以上のものは書きようがない、とおっしゃったのも作品の中で見届けてほしいです。 そこで、彼らの話、それぞれバラバラなピースを、シライケイタさんが6つの物語の台本に落とし込んでくれました。バラバラのエピソードなので、繋げるためにはどうすればいいかを模索していました。「未来の少年が自転車で走って、みんなとすれ違っていく。それは同じ施設じゃなかったとしても、どこかでみんなすれ違って、人間って生きてるよね」ってことをシライケイタさんが考案してくださったので、“未来”が大きな意味合いを持つのです。 脚本と流れができて実際に彼らにお芝居をしてもらったんですが、想像以上でした。何か演技指導的なことをしないといけないと思っていたんですが、その必要がほんとになくて。 LiLiCo え!? すごいですね。 サヘル・ローズ そうなんです。お琴もギターもピアノも実際にキャストが弾けていたので、劇中での演奏は実は本当に彼らなんですよ。音を被せたりしたわけでもなく、彼ら自身の魅力です。 それはやはり、みんなが望んでいたことにつながるのですが、初顔合わせのときに彼らからお願いされたのは「かわいそうと思われることがいちばん嫌、ちゃんと施設を知ってほしい。職員さんの存在が親代わりであることも、私たちも同じ人である。名前がある。だから可哀想と見られたくない」ということでした。 弱者として見られ、そこだけ切り取られたら結局傷つけて終わってしまう。彼らの魅力を伝えたい。またひとりひとりが輝いている姿をちゃんと本人に見てほしかったのです。輝くことだと思っていたんです。で、実際に撮影に入ってみたら、誰も台本を現場に持ってこない。全部暗記して、事前に全員で読み合わせしてくれていた。 LiLiCo ええええ!!!! サヘル・ローズ 本当にびっくりでした。どのシーンも一度だけ私がワークショップを開いていたんですけど、全部素直に受け止めてくれて。この映画は自己満足ではなくて、後輩やどこかで生きている肉親や家族に届けたい、と願っている子もいました。何よりも、全部彼ら自身の中から溢れ出てくる言葉だからこそ、何度も撮影をしないよう、できる限りテイクは1回を心がけてはいました。 LiLiCo だからか。すごく、リアルだったんですよね。子どもって「親を探して生まれてくるんだよ」なんていう人いるけど、真逆じゃない。子どもは親を選べないんだから。ずっと一緒にいても仲が悪い人っていっぱいいるじゃない。 サヘル・ローズ そうなんです。彼らの中には、生きているうちに本当の親に会うことを願ってる人もいて……(泣)。 LiLiCo 涙ぐまないで……(泣)。私、つられ泣きしちゃう。ほら、私も母とは分かりあえないままだったからね……。あの中に誕生日を知らないし面白くないっていう子がいたじゃない。あのエピソードは? サヘル・ローズ あれは私の物語なんですよ。これはシライケイタさんにお願いして作ってもらったエピソードです。私自身、本当の誕生日を知らないんですよね。キャストの彼らは、誕生日を知っているんだけど、観てくれる当事者や社会の中にはきっと分からない人もいる。自分が何者か分からない人にとって、私と同じ思いで誕生日が嫌いな人っているんだろうなと思って。それをあのふたりに全部伝えて表現していただきました。 LiLiCo お芝居が初めてだからこそ、プロの俳優が表現するものとは全然違いますよね。 人生で何が大事かって、生きてることが一番大事だと思っているんですよ。だからあのシーンがすごく好きで。だって、94歳で亡くなった私のおばあちゃんも知らなかったよ、誕生日(笑)。8人も男が生まれて、最後に生まれた女の子だったから届け出が遅くなってね。それが7月1日だったけど、ほんとは6月生まれなのよね。 結局、どんな人でも気に入らないことがありながらも、どっこい生きるのよ。実は私も、本名が嫌いだから、もっとすごい響きのいい“LiLiCo”っていう名前をつけたんだもの。それに、日本には当事者が4万2000人くらいもいるんでしょ? 日本の特別養子縁組制度はなんでこんなに遅れてるんだろうって問題意識を持ってもらいたい。だって、アメリカだったら、1年で4万人の家族が見つかるのよ。 サヘル・ローズ そうなんですよ! LiLiCo 制度が機能していたら、1年で当事者全員の家族が見つかるはずなのよね。それを、なぜ国が動かないのかって問題。すごく裏のメッセージがあるよね。このリアルを訴える最後は説得力ありました。 サヘル・ローズ いろんな団体や制度もあるにはあるのですが、それがうまく繋がっていけば、施設だけが頑張っていく環境ではなくなりますよね。家庭を求める子どもが寄りかかれる“かぞく”と出会えたら。血が繋がっているだけが“かぞく”というわけではないですもんね。LiLiCoさんのように考えてくださる方がいて、嬉しいです。ありがとうございます。