【LiLiCoのこの映画、埋もらさせちゃダメ!】『花束』サヘル・ローズ監督とのスペシャル対談:監督未経験で挑んだ本作に込めた熱い想いとは?
「この作品をきっかけに花束を送り合うような相互関係の場を生み出すことで、いろいろな化学反応が生まれると思う」
サヘル・ローズ 私はそれが一方で怖いこともあって。彼らは私のことをすごい心配してくれてるんですよ。私がどうやったら喜ぶのかってことを気にしていたんです。でも、そんな風に生きられないんですよ。18歳で施設を退所した後、自力で生きてきた彼らは一見すごく強いんだけど、その反面強くなきゃ生きてこれなかったから、社会の顔色を無意識のうちに見ちゃうんです。頑張らないでね、これ以上を伝えたくって早くキャスト全員に届けたかったのですが、間に合わなかった。 LiLiCo え? サヘル・ローズ この映画を見せられなかったキャストがひとりいるんです。彼は誰よりこの作品の完成を待ってくれていて、最後にやりとりしたLINEには「頑張って生きます」と。 あらゆる事情を抱え、大切な幼少期に愛されることを経験できなかった子どもたちが大人になったときに、コミュニケーションがうまくいかない、恋人との関係がうまくいかないということにとても傷つきやすいと、私は個人的に感じています。そういうのは当事者の問題ではないのです。彼らが幼少期に得られなかったものだから、不安定にもなって当たり前なんです。 この映画の中で、彼は美しく生きていますし、大切にしてきた人へも届けていきたいです。本人に届けられなかったのは一番、悔いが残ってはいます。考えるだけでいつも泣いてしまいます。 LiLiCo そんなことが……。大丈夫よ。先の人に観てもらうために、映画はあるんだから。 サヘル・ローズ そうですよね。この問題はすぐに解決することではないからこそ、100年先の人にも観てもらうことができると思えばいいのかも。実験的な作品になりましたが、作ることに意味があったと思うし、この作品をきっかけに花束を送り合うような相互関係の場を生み出す“『花束』プロジェクト”にしたことによって、いろいろな化学反応が生まれると思うんです。 この作品上映には必ずトークショーとお客さんとのディスカッションが必要だから、それがパッケージでできる場を探して、丁寧に届けたい。商業的ではないからこそできることを追求しようと思っています。 LiLiCo カフェで上映会をしてるんですよね。 サヘル・ローズ そうなんです。LiLiCoさんのようにこの花束を受け止めてくれる人がいらっしゃるように、上映会に来て下さった方々がそれぞれまた広げていくのが理想ですね。 LiLiCo そうそう。そういえば音楽はLUNA SEAのSUGIZOさんですよね。 サヘル・ローズ SUGIZOさんも、施設の子どもたちを長年支援してる方なんですよ。子どもたちを自分のライブに招待したり、施設におもちゃを送っていたり。そういった活動を独自に続けてらっしゃるんです。 LiLiCo 佐藤浩市さんもそうだけど、皆さん意思のある方々だったんですね。 サヘル・ローズ 子どもたちから見た大人の印象はひとりひとり違うと思うんです。苦しいことがあった子どもたちにとって大人の存在はそれほどいいものじゃないはずなんですよ。 でも、こんなに愛のある大人がみんなのことを見てるんだよってことも伝えたかったんですよね。実はSUGIZOさんは、亡くなった彼が使っていたギターを大事に引き継いでくださっています。佐藤浩市さんも出演されるだけではなく、撮影前から彼らと事前に関わってくださったり。 LiLiCo なんと……。やっぱり人でつながってるよね。この問題に取り組んでいる人同士でつながるものがあるんですよ。支えられてここまできた、っていう感じ。 サヘル・ローズ それはあります。でも、途中で辞めたいって投げ出したかったことも正直ありますよ。もうね、孤独の塊。編集のときも、ふと、孤独に陥ったり。できた今も、正直、孤独です。監督ってこんなに孤独なものなんだ、って実感しているところです。 対照的だったのが、この映画の編集の時期に出演した『シサㇺ』(※公開中)。アイヌのお話なんですが、監督を経験した上で表現する側になったときにすごくやりやすくなったんですよね。 LiLiCo あるある。どっちも経験した人だと、現場の気持ちが分かるから。また映画を作りたいと思う? サヘル・ローズ はい。もっともっと伝えたいことありますから。岩井さんは、次回作はこういうドキュメンタリーじゃなく完全なるフィクションを撮りなさい、って言ってくださっていたので。そこまでの自信はないですが、やれる日を目標に、今は花束のためにみんなで全力で届けています。そのためなら、どこへでも、いくらでも走り回ります。 映画『花束』 公式HP https://hanataba-project.com/ 公式X https://x.com/hanataba_pro 公式Instagram https://www.instagram.com/hanataba.pro/ ■映画『花束』上映会場 ※最新状況は公式㏋やSNS、各会場HPなどをご確認ください 2024年9月16日 PEACE DAY × 国際平和映像祭 2024(ヒューマントラストシネマ渋谷) 2024年9月19日~21日 喫茶 壁と卵(幡ヶ谷) 2024年9月20日~26日 MOVE ON やまがた 2024年9月20日~28日 深谷シネマ(埼玉) 2024年9月29日~30日 喫茶 壁と卵(幡ヶ谷) 2024年10月12日 第19回札幌短編国際映画祭 2024年11月2日~11月3日 第31回キネコ国際映画祭(二子玉川) 「他にも随時、HPにもUPしてまいりますのでぜひご覧いただけたら幸いです」(サヘル) (C)2024 hanataba project 取材・文:よしひろまさみち 撮影:源賀津己 ■LiLiCoプロフィール 1970年11月16日、スウェーデン・ストックホルム生まれ。18歳で来日し、芸能界へ。01年からTBS『王様のブランチ』に映画コメンテーターとして出演するほか、女優、ナレーター、エッセイの執筆など幅広く活躍。