新しい「ジェンダー観」が描かれたおすすめの絵本6冊とは? 「すべてを絵本で伝えようと力まなくていい」
5)『しげるのかあちゃん』 トラック運転手の豪快な「かあちゃん」を持つしげる。2トントラックを乗りまわし、犬小屋の修理から、近所のボヤの鎮火まで、なんでもできる頼もしいかあちゃんを、尊敬する男の子のお話。「とうちゃん」の存在はなく、どうやらシングルマザーでがんばる女性を描いています。 6)『わたしは反対! 社会をかえたアメリカ最高裁判事ルース・ベイダー・ギンズバーグ』 実際に、1933年にアメリカで二人目の女性最高裁判所判事として活躍したルース・ベイダー・ギンズバーグ氏をモデルにした伝記絵本。とても活発だった少女が、やがて判事となり、性差別の撤廃などを求める活動を行い、アメリカで最も尊敬される女性と言われるまで成長します。未就学児には少し難しい内容ですが、ジェンダーについて考えるとてもよい絵本です。 ■絵本を通じて「大まかな価値観」を手渡す ――子どもたちがジェンダーについて考えられるおすすめの絵本を紹介してもらいました。こうした絵本を通して伝えられることは? 私はジェンダーに関して、すべてのメッセージを絵本で伝えようと力まなくていいと思っています。絵本は真面目なテーマを題材にしていても、どこか「クスッ」と笑わせてくれるような表現もあって、楽しんで読むことができます。 ですから、子どもたちが読んでいて、大人が伝えたいと思っている”大まかな価値観”を伝えられたらと思っているんです。 ――大まかな価値観、ですか? たとえば、LGBTQについて描かれている絵本であっても、その本質についてわざわざ親が説明するのではなく、「スカートが好きな男のがいてもいいんだ」とか「お母さんが外で働いていて、お父さんが料理をしてくれる家もあるんだ」など、大らかな気持ちを手渡せたらいいと思うのです。絵本はそうした価値観を伝えるのに役立つのだと思っています。
――子どもたちが自然と、ジェンダーの多様性について受け入れられるといいですね。 ええ。一方、私は男女共同参画の観点で、ジェンダーに関する講演を依頼されることがあるのですが、この時に、必ずセクシャルマイノリティの絵本を含めて紹介し、データにも触れます。 なぜかと言えば、20代から50代の世代の多くが、いわゆる「ジェンダー教育」を受けなかった世代だから。つまり、私たちの多くは、ジェンダー平等や性の多様性についてよく知らないということ。 知らないからこそ、子どもたちと一緒に知っていきましょうと呼びかけています。 ■ジェンダーについて学ぶことは「命」を考えること ――絵本を通してジェンダー教育を広めたいと願う東條さんの最大の目的は? これまでの教育において、「ジェンダー」が取り上げられてこなかったために、 ほとんどの人がジェンダー平等について知らないまま過ごしているんですね。その結果として、ジェンダーや性的指向に関して、SNSで心ない言葉が飛び交ったり、変な噂話が立てられたりするのだと思うのです。 「どうして、性の話を子どものうちから知らなきゃいけないの?」と問われたら、それは命の問題だからです。 2022年に行われた認定NPO法人 ReBit(10代のセクシャルマイノリティの支援をする団体)の調査によると、10代のLGBTQの子供たちが前年一年間に、48.1%が自殺念慮、14.0%が自殺未遂、38.1%が自傷行為を経験したと回答しています。 今、結果については、国も非常に重く受け止めているようですが、つまり性の多様性への無理解は、命に直結する問題だということです。誰もが自分らしく生きたいと願っています。「男らしさ」「女らしさ」を押し付けるのではなく、「自分らしく」が大事だということを、私はいつも講演でお話ししています。 そんな時、今回ご紹介したような、エンパワーメントされる絵本を通じて、大人が子どもたちに「そのままのあなたが大切だよ」ということを、伝えてあげてほしいなと思っています。 かけがえのない存在であることを、信じさせてほしいのです。 (取材・文/玉居子泰子) 新潟県上越市生まれ。白百合女子大学児童文化学科卒業。銀行、メディアファクトリー(現KADOKAWA)、国立国会図書館、幼児教育専門学校、ビジネス書出版プロデュース社、公立校図書館に勤務を経て、現在「絵本コーディネーター」の肩書で活動中。バンタンデザイン研究所 イラストレーター&絵本作家コース講師。絵本を「ジェンダー」「共生」「支援」といった社会的視点から読み解くスタイルで、講演、講座、執筆、イベントに携わる。
玉居子泰子