私は病弱でずっと母には迷惑をかけてきました。母は今も心配して頻繁に連絡をくれます。自分が死んだら母にすべての遺産を渡すことはできますか?
既婚の50代男性Aさん、子どもはいません。もともと病弱で、最近新たな病が見つかり、「もしかしたら、自分は長くないかもしれない」と感じているそうです。 結婚し必死に働いてきましたが、専業主婦の妻は病弱な自分にあまり関心がないようで悲しいとのこと。「もし自分が死んだら、自分の遺産を妻に渡したくない。相続財産は妻や子どもに行くようですが、母に全部渡すにはどうしたらいいですか?」とのご相談です。 ▼子ども名義の口座に「月3万円」ずつ入金してるけど、将来口座を渡すときに「贈与税」はかかるの? 非課税にすることは可能?
遺産をもらうのは誰なのか?
相談のケースについて、まず相続人(相続を受ける人)と相続順位を整理して、法定相続割合を確認します。図表1は、相続人の範囲と相続順位を表したものです(※1)。死亡、もしくはもともと存在しない法定相続人は白抜きです。また、この他に相続人はいないものとします。 図表1 法定相続人の範囲と相続順位
(国税庁「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」から著者作成) Aさんには、子どももきょうだいもいません。早くに父親を亡くしているため、妻と第2順位の母が相続人となります。このように、配偶者と直系尊属だけが相続人である場合、遺産の法定相続分は次のとおりです。 配偶者:3分の2 母親:3分の1 Aさんは遺産すべてを母親に渡したいと考えていますが、法定の割合で見ると、妻は3分の2の遺産をもらえます。ただ、法定相続分は、必ずそのように分割しなければならないわけではなく、相続人の間で遺産分割の合意ができなかったときの遺産の持ち分です。 では、法定相続分とは異なる相続割合での合意は、どのような場合に起こるのでしょうか。
遺言書と遺留分侵害請求
実際の遺産分割が法定相続分と異なるケースとして、被相続人(亡くなった方)が遺産の配分を遺言書に書いた場合が挙げられます。遺言がある場合には、原則として被相続人の遺志に従った遺産の分配がされます(※2)。 Aさんが、全財産を母親に渡す旨の遺言書を書いた場合、妻が受け入れればAさんの希望どおりの相続となります。しかし、妻が納得できない場合は、遺留分侵害額の請求調停を家庭裁判所に申し立てることができます。 遺留分とは、法定相続人(兄弟姉妹以外)に法律上取得することが保障されている最低限の取り分です(民法第1042条)。法定相続人からすれば、その遺留分さえもらえないことに承服できなければ、侵害された額の請求ができるということです。遺留分の割合は、次のとおりです(※3) 1.直系尊属のみが相続人である場合(母親):3分の1 2.上記以外の場合(妻):2分の1 このケースは妻の遺留分についてなので、妻は法定相続分の3分の2のさらに2分の1、つまり遺産全体の3分の1(2/3×1/2)が遺留分となります。母親と取り分が逆転しましたね。 妻が遺言書の内容を知り、到底納得できないということであれば、この請求を行う可能性があるということです。